インタビュー

Little Louie Vega

マスターズ・アット・ワークのルイ・ヴェガが、己のルーツに立ち戻ってソロ作をリリース! ラテン魂全開の『Elements Of Life』は心を豊かにしてくれる超名作だ!

御大はルーツをめざす


 ハウス・ミュージックが80年代頭に誕生してから、早20年。その間、さまざまなレジェンドたちが歴史を彩ってきた。故ラリー・レヴァンやデヴィッド・マンキューソ、トニー・ハンフリーズ、フランソワ・ケヴォーキアン……そして、ルイ・ヴェガ。プロデューサー~DJたる彼もまた、そんなレジェンドのひとりだ。

 90年に結成されたケニー・ドープ・ゴンザレスとのマスターズ・アット・ワーク(以後MAW)で展開してきたキャリアの数々は実に華々しい。オリジナルのヴォーカルを解体してハウス・トラックへと変換する技法は、90年代初頭に〈マスターズ・アット・ワーク・ダブ〉としてUSのラジオ・チャートを席巻。一介のハウス・ユニットとしては異例の快挙だった。

 だが、アンダーグラウンドでの活動歴は、それ以上に膨大だ。90年代後半に限って言えば、彼らはもっぱらルーツ・ミュージックへの接近を試みた。NYラテンの大物であるティト・プエンテ、ジャズ界のこれまた大御所であるジョージ・ベンソンやロイ・エアーズとの共演、さらにはフェラ・クティへのトリビュート。いまではあたりまえとなっているルーツ・ミュージックへの接近。その先駆者はMAWであり、なかでも中核的な役割を果たしてきたのは、ルイ・ヴェガだった。

 いま、そんなルイが、MAWの活動を休止している。それは、このたびリリースされる初めてのソロ・アルバムのためだった。アルバム・タイトルは『Elements Of Life』。彼がブレイズと手掛けた2000年のヒット曲と同タイトルである。この『Elements Of Life』、内容面では、彼が誇る流麗なハウス・トラックが少ない。初めてのソロ・アルバムという事実にも驚くが、そうしたサウンドの部分に面食らう人も多いのではないか。

 今回、彼はハウスを離れて何を提示したのか。それは、コンテンポラリーなラテン・ミュージックだ。アルバムは、そこを中心としながらアフロ・キューバン、ボサノヴァ、サンバ、サルサ、アフリカン・ポリリズムと、多彩な変化を見せる。どれも説得力に溢れた〈ワザ物〉ばかりだ。なぜここまでの〈説得力〉を獲得できたのか。ヒントは、彼の原体験にある。

「両親は、プエルトリコからの移民なんだ。僕は65年にNYのブロンクスで生まれた。NYで生まれ育ったプエルトリカンだから、ニューヨリカンというわけだ。音楽一家だったね。父親はサックス・プレイヤーだったし、母親と叔父はシンガーでもあり、作詞家でもあった。家の中にラテンのレコードはそれこそ自然にあったし、近所はさながら〈ウエストサイド・ストーリー〉そのままだったよ。ラテン・カルチャーにドップリだったんだ。音楽的に言えば、叔父の存在が大きかったね。偉大な人物だった」。

 その叔父とは、故エクトル・ラヴォー(93年死去)のこと。60年代から70年代にかけて活躍した彼は、ウィリー・コローンやファニア・オールスターズでの活躍で知られる、NYサルサの顔役だ。もちろんルイが叔父エクトルのように歌えるわけではないし、楽器を弾けるわけでもない。彼はあくまでも一介のプロデューサー~DJである。だが、成長する傍らでそういうラテン・ミュージシャンの生き様を見てきたことは、強烈な原体験だった。プロデューサーとしてハウス・シーンを渡っていく時にも、それは大きなアドヴァンテージになったはずだ。彼は続ける。

「確かにニューヨリカン・ソウルもラテン・プロジェクトだった。でもこのアルバムは、もっと〈個人的〉なモノなんだよ」。

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掲載: 2003年05月01日 12:00

更新: 2003年05月01日 18:57

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/岡本 俊浩