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インタビュー

Little Louie Vega(2)

愛と魂の旅立ち

〈個人的〉──なぜこのような言葉が出てきたのか。彼はこう説明する。

「一昨年、子供が生まれたばかりなんだ。世界貿易センタービルのテロ直後だった。多くの人があの事件で死んだ。でも、僕らの間には新たな生命が誕生した。逆説的だけれど、深い意味を感じたんだ。それはアルバムの主題にも繋がっている。世界はいま不穏な方向に向かっているかもしれない。でも、僕はそれに対して大丈夫さ、と言いたい。僕らが感じたように、誰にだって身近なところから生まれる〈愛〉ってヤツがあるだろ? それを素直に感じることができれば、心配することはないんだ。例えば、今回のアルバムに入れた“Brand New Day”。この曲は、僕らの子供が迎える新たな朝を指しているんだ。〈愛〉で包まれた朝であってほしい。そういう願いからさ」。

 アルバム・ジャケットに描かれた、地球を支えるいくつもの手。まさに、このアルバムを象徴するイメージだ。そんなイメージの源を感じさせるエピソードは、今回結成された〈エレメンツ・オブ・ライフ・バンド〉にも見い出すことができる。

「演奏で関わってくれたメンバーの存在は大きい。そのなかでも中心になってくれたのは、ラウール(・ミドン)とアナンだね。彼らなしでは、この作品は成立しなかったんだ」。
 まずアナンは、先ほども触れたルイの第一子を産んだ奥方だ。彼女はこのアルバムにシンガーとして参加し、作詞面でも大きな役割を果たしているが、かつてはダンサーでもあった。2人の出会いは、2000年にマイアミで行われた音楽コンヴェンション〈WMC〉。当時アナンは、MAWのステージにいたのだという。

 一方、ラウールの場合は、歴戦の演奏者であることを強調しなければならない。彼は、本作品では作曲・作詞/アレンジ/ヴォーカル/ギターとさまざまなパートで活躍している。ホセ・フェリシアーノからジェニファー・ロペスまで幅広いアーティストの作品にコーラス~楽器演奏で参加してきたキャリアは、バンドの演奏面に大きな〈説得力〉を与えている。

 プレイヤーを従えたアコースティック仕立てのクラブ・ミュージックは多い。クラブ・ミュージック自体が大きな過渡期を迎えた状況で、コンピュータによる作曲だけでは独自性を保ち難い、あるいは単純に機械的な音に疲れている……そういう理由もあるのかも知れない。では、この『Elements Of Life』で採られた大々的なラテン・アプローチ。それは、上記のような理由に基づくものだろうか。それは、否であろう。ハウス・レジェンドとしての地位に安穏とせず、みずからのアイデンティティーを遡ったルイが、その結果として見い出した〈ラテン・スピリット〉なのだ。それが自然に現れた結果が、熱気溢れる演奏に繋がっている。実際体験してもらえれば、おわかりいただけるはずだ。

 芸歴20年余。ハウスを極め、世界を飛び回った男が向かった先は、生まれ故郷のブロンクスだったのだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月01日 12:00

更新: 2003年05月01日 18:57

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/岡本 俊浩