インタビュー

ビヨンセ(2)

とんでもないモノ

 さて、アルバムにおける大きな柱は70年代のソウル・サウンド。ここ最近80年代を意識的に取り込もうとするアーティストは多いけれど、常に一歩先を行くビヨンセが目を付けたのは70年代。「あの時代のサウンドには、何か大切な〈心〉が宿っていたと思うのよね。それに比べて最近の音楽には何かが欠けている」と語るビヨンセだが、70年代に目を付けたのは、何も流行の先を意識してというわけではなかった。

「70年代のアーティストが好きなのは、両親……特に母親からの影響が大きいかしら。母はいつもダニー・ハサウェイを聴いていたし、オージェイズやジャクソン5はTVでいつも観ていたわ。それにスティーヴィー・ワンダーやアレサ・フランクリンなんかもね。物心が付いた頃からそうだった。70年代のことは知らないけれど、70年代の音楽には凄く馴染みが深いの」。

 というわけで、アルバムには生楽器を用いたスロウ・ジャムやバラードがたっぷり含まれている。その〈熱さ〉といったら、二十歳そこそこの女の子が生み出したものとは到底思えない。体の芯から火照ってくるこの〈熱さ〉には、人間本来の原点すらを感じてしまう。とはいえ、そこで終わらないのがビヨンセの凄いところ。70年代サウンドを振り返りつつも、時代をさらにリードするサウンドを開拓したいという意識が、作品をさらなるネクスト・レヴェルへと押し上げた。

「いままで誰も挑戦したことのないようなR&Bレコードを作りたかったの。そのためには少々のリスクくらい恐れてちゃダメよね。だからいわゆる大物プロデューサーではなくて、これから芽が出そうな人たち(エイメリーを手掛けたリッチ・ハリソンや、ルーツを手掛けたスコット・ストーチら)をあえて選んだわ。ジャンル的にもレゲエからヒップホップ、中近東にジャズ、70年代風……と多方面に渡っていると思う。シュギー・オーティスの曲もカヴァーすれば、ジェイ・Z、ショーン・ポール、アウトキャストのビッグ・ボーイ、ミッシー・エリオットも参加しているし、それにレジェンドのルーサー・ヴァンドロスとはデュエットまでしちゃったわ」。

 というわけで、最新のR&Bサウンドに飢えている人たちは、ぜひともチェックをお奨めしておきたい。ドナ・サマーの“Love To Love You Baby”をたくし込んだ“Naughty Girl”がフロアを揺らすのは時間の問題だろうし、思わず〈なんじゃ、こりゃ!?〉と叫んじゃった“Hip Hop Star”には、正直言って驚愕した。カッコ良すぎ。この曲はビヨンセと、元グルーヴ・セオリーのブライス・ウィルソンがプロデュースを手掛けたものだ。

「ブライスはトラックを担当してくれたの。凄く新鮮でしょ。セクシーでありながら、ロックンロールからヒップホップまですべての要素を網羅している。こんなR&B、いままで聴いたことがない!って思ったわ。そこにアウトキャストのビッグ・ボーイとスリーピー・ブラウンのラップが入って、とんでもないモノが誕生しちゃった(笑)。一回聴いただけじゃ掴めないかもしれないけれど、何度も聴いてるうちにきっと病みつきになっちゃうわよ」。

 ビヨンセのパパの話では、プロデュースやヴォーカル・アレンジなど、アルバムのほぼ75パーセントを彼女自身が手掛けているそうだ。う~ん、凄すぎる21歳。そしてこの美貌だもんな、天は二物どころか百物を与えちゃったというわけか。ローリン・ヒルの『The Miseducation Of Lauryn Hill』、アリシア・キーズの『Songs In A Minor』を初めて聴いたときのあの衝撃を思い出す。このアルバムでR&B界のサウンド・マップに地殻変動が起きるのはまず間違いない。ちなみにアメリカでは、ジェイ・Zと共演した先行シングル“Crazy In Love”が、すでにエライ騒ぎを引き起こしてますよん。

▼『Dangerously In Love』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年07月03日 12:00

更新: 2003年08月14日 19:05

ソース: 『bounce』 244号(2003/6/25)

文/村上 ひさし

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