BHANGRA2003!!(2)
パンジャビMCの大ブレイクをきっかけにやってきたバングラ・ビート旋風の明日はどっちだ? 対談/大石始×サラーム海上
大石「というわけで、なにはともあれパンジャビMCというわけですが……とにかくアメリカ、ヨーロッパともに凄いことになってますね。98年の『Legalised』に収録されていた“Mundian To Bach Ke”が昨年末にシングルとしてリリースされてヨーロッパでブレイクした後、今年に入ってからはジェイ・Zが同曲をリミックスした“Beware Of The Boys -Jay-Z Remix”がアメリカで火が着いて、ビルボード・シングル・チャートの1位まで獲得しちゃった」
サラーム「ヨーロッパでヒットしたのはイギリス、ドイツ、イタリア……と、いわゆる〈ワールド・ミュージック〉が聴かれる地盤がある国だね。だから、アメリカでのウケ方とは違うと思うんだ。ヨーロッパ各国でのヒットはワールド・ミュージックとして聴かれてると思うんだけど、アメリカではちょっと違うね」
大石「そんで、90年代前半から活動してきたパンジャビMCがなんでここまでの大ヒットをこの2003年にトバしたか?ってことなんですけど、ヒップホップ/R&Bの世界では〈インド・テイスト〉というのがここ最近の流行としてあったようですね(右下のコラム参照)。そんなムードがパンジャビMCのヒットの下地となっていたところもあったんでしょうね」
サラーム「でもさ、パンジャビMCの最初のころの作品っていまよりもずっとヒップホップ的だったんだよな。もちろんインド色もあったんだけど、いまほど強くなかった。でもどういうわけか、98年の『Legalised』では半分以上現地のバングラ――バングラとバングラ・ビートを分けて話すけど――の有名な歌手ばっかりフィーチャーしてバングラ寄りの音になってるんだよね。だから、パンジャビMCは一種の原点回帰をしているんだよ」
大石「でも以前のヒップホップ的なプロダクションのままじゃ、逆にこれだけの評価を得られなかったとも言えるかもしれませんね」
サラーム「うん、そうだね。だから、10年やってきたなかで自分の個性が何なのか考えてきたんだろうな。そういう意味では、パンジャビMCのサウンドはプロデューサーズ・ミュージックなんだよ。彼は西洋の音楽を聴いて育っているわけだから、むしろ初期はダサいバングラから離れるためにヒップホップをやってたんじゃないかな。でも、普通にヒップホップやってるだけじゃあんまりおもしろくないからってバングラに戻ってきたんだろうね。それとさ、いままでなんでバングラ・ビートがヒットしなかったかっていうと、サウンドの〈下部構造〉が弱かったこともあるよね。つまり、高音と中音が強くてショボいサウンド・プロダクションだった。でも、パンジャビMCはもともとヒップホップをやってたから、その下部構造を強くすることを考えてた。だからそういう意味でも“Mundian To Bach Ke”は画期的だったんだね」
大石「そんな音の質感の部分がヒップホップのアーティスト/リスナーを惹きつけたところもあったんでしょうね」
サラーム「あと、バングラ・ビートがそもそもサンプリング・ミュージックだってこともあるね。今度リリースされるパンジャビMCの『The Album』にもボリウッド(インド産のエンターテイメント映画)の有名な曲にトラックをつけてる曲もあってさ、サウンドの構造そのものがヒップホップと近い部分もあるからね」
大石「じゃあ、ヒップホップを当たり前のように聴いていて、その耳でバングラの良さも再発見して……という世代のなかから、今後〈次のパンジャビMC〉的なアーティストが出てくる可能性もありそうですね」
パンジャビMCのニュー・シングル“Jogi”(Super Star/Warner Germany)
サラーム「そうだね。『Urban Explosion』っていう2枚組のDJミックスには、ミッシー・エリオットやジェニファー・ロペスなんかに混じって若い連中がいっぱい参加してるね。でも、さっそくパンジャビMCがパクられてる(笑)。インド人はあんまりオリジナリティーを考えない人種なんだよ。つまり、デシ・カルチャー(現在のインド文化全般を指す言葉)はサンプリング文化なわけ。でも、パンジャビMCの“Mundian To Bach Ke”にはオリジナリティーがあった。だからこれだけのヒットになったとも言えるね」
大石「では、まだバングラ・ビート/バングラの音源って入手しにくいところもあると思うんですが、オススメ盤を紹介していただけますか?」
サラーム「そうだね、日本盤としてもリリースされてる『The Rough Guide To Bhangra』は現在いちばん入手しやすいバングラ・ビート/バングラのコンピとしてオススメだね。“Mundian To Bach Ke”やサキのような最近のバングラ・ビートのシンガーも入ってる。それとバリー・サグーが音楽監督を手掛けた映画〈ベッカムに恋して〉のサントラ『Bend It Like Beckham』。ここに入ってるハンス・ラージ・ハンスやマルキート・シンなんかはバングラのアーティストで、ボリウッドの大歌手なんだけど、バリー・サグーが関わってるだけあって音はバングラ・ビート。インドで大ヒットした映画〈Kabhi Khushi Kabhie Gham...〉でもバングラが使われてる。まあ、ボリウッドのサントラを買えばバングラの曲は1曲や2曲は入ってるような感じだけどね」
大石「なるほど。どうやらここ日本にもバングラ・ビートの大波がやってくるのは間違いなさそうですが、それまでにパンジャビMCを含め、これらの作品をチェックしておいたほうが良さそう……ってことで、話の続きは〈大インド特集〉で!?」
▼文中に登場した作品を紹介。
コンピ『Rough Guide To Bhangra』(World Music Network)
サントラ『Kabhi Khushi Kabhie Gham...』(Sony India)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年08月14日 16:00
更新: 2003年09月04日 19:50
ソース: 『bounce』 245号(2003/7/25)
文/サラーム海上