インタビュー

Andrew W.K.

完璧主義者という一面をあらわにしたロックンロール野人のニュー・アルバム『The Wolf』は、ド派手なパーティーの再開を告げるスーパー・ビッグ・ボムだ!!

 いやあ、熱いよな。汗がダラダラ出てくるぜ、ってクソ残暑のことじゃないぞ。オレたちのパーティーには欠かせないあの長髪(挑発)野郎、アンドリューW.K.のニュー・アルバム『The Wolf』のこと。聴いたかい? 聴けって! いや聴いてください(下手)。ここにギュウギュウにパックされてるスタミナ満点のカルビ・ナンバー12連発。この脂の乗った熱くてジューシーなロックンロール。なんといってもアルバム・タイトルが、まさに一匹狼なアンドリューのアニキをズバッと表してるぜ!

「オイ、チョイ待ち。オレは自分のことを狼だと言ってるわけじゃないし、どの曲も狼には関係ねーんだ。今回のタイトルは何も意味はない。ただ、こう、パワフルで電撃的なモノが良いと思ってコレにしただけ」。

 おっと、アニキそりゃないよ。でもアニキが狼を思いついたのには、なにかヒントくらいあったんじゃないの?

「まあな。オレが狼っていう動物に対してずっと魅了されてきたのは事実さ。昔は狼に関する記事を集めたり特集したりした〈Wolf Magazine〉って雑誌を作ったりもしてたしな。そのことを知ってるオレのファンが、オレと狼を関連付けたりして。そういうこともタイトルのアイデアに繋がってるかもよ」。

 なるほど。いろんなことしてたんスね。でも、やっぱりアニキの天職はロックンローラー。ミシガンからNYへ裸一貫で移り作り上げたデビュー・アルバム『I Get Wet』が海を越え、イギリスを発火点に日本~アメリカとつぎつぎにアトミック・ブレイク。世界中にその〈鼻血ジャケ〉がドバーッと撒き散らされたのは記憶に新しいところだ。そして、シーンの熱い視線(プラス〈一発屋じゃねーの?〉っていう冷ややかな視線)のなか、アニキはそんなプレッシャーを皿ごとたいらげて、またもや強力なアルバムを生み出した!

設計士=アンドリュー.W.K.?

「前作でいろんなことがクリアになって、やっと地固めができたって感じだな。このアルバムでは、とにかくメロディーに焦点を当てた。ヴォーカルが入ってないインスト部分もたくさんあるし、歌の部分もずいぶんメロディアスになってるだろ。前作では曲の大半をピアノで書いたにも関わらず、出来上がった曲ではピアノの音は抑えてた。でも今回は、ピアノの音を際立たせてるんだ。曲の土台がハッキリ聞こえるようにな」。

 なるほど、アルバム1曲目“Victory Strikes Again”から、前作のつんのめるような勢いはそのままに、さらに高みをめざすかのような躍動感を鍵盤の響きが与えてる。そして、そこにメラメラと燃え上がって絡みつくギター!! ほかの曲でもピアノがファンファーレみたいに勇ましく鳴り響いてるけど、小さい頃、両親の勧めでクラシック・ピアノを習ったのが音楽との出会いだったアニキにとっちゃ、鍵盤は欠かせないエッセンスなのかもな。

「キーボードはすべてが始まるところさ。ギターのメロディーやリードにしても、最初にピアノで書いてからギターに取り掛かっているんだ。ピアノでは難しいところをギターで表現できるのは素晴らしいし興奮するけどさ、ピアノで壮大なコードやオクターヴを叩くのはこの世でいちばん気持ちイイ。その快感を核にしてオレの音楽は作られているわけよ」。

 思えば、習いごとのピアノではスグ物足りなくなって、ドラムを始めたっていうアニキ。叩く→快感→音楽、この本能剥き出しの連鎖こそ、パーティー・ロックの大原則みたいだ。でもそれだけでアニキのサウンドを理解したつもりになってたらお目玉喰うぜ(コラッ!)。実はアニキはサウンドのスミからスミまでに細かく手を入れるこだわりの漢(オトコ)。あの何重にも重なったブ厚いサウンドは、すべて自分で、細心の注意をもって積み重ねたものだって知ってた?

「そう、このアルバムはオレが完璧にコントロールして完成させた。楽器も全部オレがプレイしてる。レコーディングは全部オーガナイズされたシステムを使ってて、全曲分のギター、ベース、サウンド・エフェクトのパートを同時進行で収録した。それを編集して曲を組み立てたんだ。オレはだな、自分のことをソングライターだとは思ってなくて、壮大なものを作る設計士だと思ってる。シンプルなピアノから生まれたメロディーを土台に、なにかファンタスティックで、どデカイものを作っていくのさ。この大掛かりなプロジェクトこそ、オレの生き甲斐さ!!」。

 こんなレコーディングへのこだわりは、「ガキのころは科学者になりたかったんだよなぁ」というアニキだからこそのマッド・サイエンティストぶり。でも、出来上がったナンバーを聴けば、決してアニキが音楽を機械の部品か何かみたいに扱ってるわけじゃなく、自分の血や肉として、身を削りながらクリエイトしてることが伝わってくる。パッと聴き、そのエネルギッシュさに圧倒されるけど、そこにはプライヴェートな心情も見え隠れしてるんじゃないかな。

「そうだな、前のアルバムより今回のほうが〈We〉より〈I〉が増えてるのは確かだ。なかでもいちばんパーソナルな曲は“Really In Love”かな。あれは思いがけない愛を見つけるって歌なんだけど、最愛の人とかに限ったことじゃなくて、この音楽を愛してくれる人を見つけるって意味でもあるんだ。オレの音楽を愛してくれるヤツってのは、オレの一生と関わっていて、オレに生きる意味や働く理由を与えてくれるわけだろ。〈ウォー! それって、なんて幸せなことなんだ!!〉、そう思うとまさに恋に落ちてる気分さ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年08月28日 14:00

更新: 2003年09月04日 19:50

ソース: 『bounce』 246号(2003/8/25)

文/村尾 泰郎

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