インタビュー

キリンジ

純然たるオリジナルということで言えば約2年ぶりとなるニュー・アルバム『For Beautiful Human Life』。キリンジ・ラヴァーズにとってはそれだけでも〈ワクワク〉な気分だが、その内容はこちらの期待値を大幅に上回って!

集大成っぽくないものができて良かったな


 左で紹介したディスコグラフィー、今年3月のシングル(といっても6曲入り!)『スウィートソウル ep』、先行シングル“カメレオンガール”を経てリリースされる、最新のキリンジから届けられた最新のアルバム『For Beautiful Human Life』。

「『スウィートソウル ep』を録る段階で、結構曲はあったんですよね。〈AV〉っていうライヴやトリビュートとかをやりつつ曲を書き貯めてて……」(堀込高樹)。

「……『Fine』以降いろいろやってきたことが今回のアルバムのなかには入ってるよね」(堀込泰行)。

 泰行言うところの〈『Fine』以降〉というのをおさらいしておくと……全国ツアー、ピチカート・ファイヴのカヴァー盤参加、リミックス・アルバム第2弾リリース、はっぴいえんどのトリビュート・アルバム参加、〈夢見る〉チョコレートのCMソング、セルフ・プロデュースによる『OMNIBUS』の制作、映像とのコラボレート・ライヴ〈AV〉、レーベル移籍、ユーミンのトリビュート・アルバム参加、夏フェスなど、結構濃い。なかでも、トリビュート参加というのは、ステージでもほとんどカヴァーをやらなかったキリンジにとって、意味のある体験だったようだ。

「トリビュートって、人の曲だからある意味無責任にできるところありますよね。自分たちの曲だったら思いつかないような大胆なアレンジができたりとか。だから、今回のアルバムでは結構デジタルっぽいことをしてたりとか……」(泰行)。

 ……と、〈大胆〉が功を奏した結果は、アルバム冒頭の“奴のシャツ”からして窺える。また、〈デジタル〉という部分でいえばクロスオーヴァー的サウンド処理が施された“嫉妬”や“the echo”などに顕著だ。そういったものを耳にすると、『For Beautiful Human Life』には、キリンジにまとわりついていたいろいろな〈たが〉が外れていった印象を受ける。

「片意地張らずにエネルギーを注ぎ込めるようになった感じ。100メートル走でも力むと遅くなるとか言うじゃないですか。堅くならないほうがいい記録が出るというか、そんなものだと思うんですけどね」(泰行)。

「以前は、言ってみれば堅苦しさというか杓子定規なところもあったんだけど……それはなくなったかな。今回は、曲とかアレンジとか歌詞が有機的に絡まってるというか、お互いに作用しあっているものが、わりと出来たなあ」(高樹)。

「結果的にヴォルテージの高い印象が持てるかどうかとか、そんなことを考えてやったんですけど。そういう意味で今回はすごくバランスがとれてる。とにかく、集大成っぽくないものが出来て良かったな。いいものを作ろうとすると、曼陀羅みたくいろんな要素が詰まってるものにしたくなるんですけど、今回のアルバムは、ある一定のトーン――ちょっとブルーな、憂鬱な――が流れてる感じがしながらも、そのなかでヴァラエティーに富んでて、かつおもしろい」(泰行)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年09月25日 14:00

更新: 2003年10月09日 18:16

ソース: 『bounce』 247号(2003/9/25)

文/久保田 泰平