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インタビュー

The Strokes(2)

やりたくないことだけはハッキリしてた

「完成してから1か月くらい経つけど、まだアルバムの内容についてあれこれ分析する時期じゃないと思うんだ。ただ、あらゆるサウンドを追求するために時間はすごくかけた」。

 そう答えてくれたのはアルバート・ハモンドJr(ギター:以下同)。本稿の写真、いちばん左で睨みをきかせている巻き毛の男。父親は70年代に西海岸で活躍したポップ・シンガーのアルバート・ハモンド、っていうのはちょっと余談だが、それにしても。ストロークスのサウンドはファースト以上にパワフルになった、それは間違いないと思う。曲の簡潔さはそのままに、より内面に深く踏み込んだようなそのストイックさ、それはまるでよく焙れられたブラック・コーヒー。砂糖やミルクなしに、そっけなくテーブルに置かれて深い漆黒の輝きを揺らしているそれのようだ。

「ファーストよりもシンプルで、アレンジも良くなっていると思う。バンドが2作目を出すときってクレイジーになっていったりするけど、オレたちはシンプルでクレイジーな方向へ行ったって感じかな。このアルバムは今のオレたちをよく表していると思う。ファーストはある瞬間を捉えたもので、セカンドは別の瞬間を捉えたもの。そもそも以前と今ではバンドとして違う場所にいて、考え方も違ってきてる。それだけで自然と違う作品になると思うな」。

 アルバムに収録された曲は11曲。それ以外に書かれたものはなく、その11曲を完成させるためにメンバーは心血を注いだ。あれだけ世間を騒がせたデビュー・アルバム『Is This It』に続く〈話題作〉の制作にしては慎重すぎるともいえる姿勢だが、〈ストロークスであること〉を何より貫いた結果はバンドに揺るぎないアイデンティティーを与えたようだ。

「オレたちは、今まで1曲足りとも同じレコーディング方法だったことはないよ。アプローチの仕方が毎回違うんだ。セカンドについていうなら、まずアレンジがクレヴァーになってきていると思うし、ソングライティングも以前より力強くなってきているね」。

 確かに。アルバートとニック・ヴァレンシ、2人のギタリストが繰り出すリフとメロの絡みは(言われたくないだろうけど)テレヴィジョンを思わせるワイルドな色香をますます漂わせ、ニコライ・フレイチュアのベースがタイトにふくらみを持たせる。そこにファブ・モレッティの一段と存在感を増したドラムがずっしりと食い込んでいき、全体をビタースウィートに湿らせるのがジュリアン・カサブランカスのくぐもった歌声。この鉄壁のコンビネーションが前作以上に細かく機能し合ってる。ストロークスというルービックキューブをガチャガチャいじりながら次々と新しいデザイン=曲が見えてくるような快感。でもどの曲も一発でストロークスだとわかるシンプルさ(への執着)からは、彼らの曲への入れ込みようが伝わってくる。

「(新作に対する)アイデアみたいなものはあったよ。どちらかというと、やりたくないことだけはハッキリしてたって感じかな。そのほうがいいと思うんだ。行きたくない方向性だけわかってるって感じのほうが。ゴードン(・ラファエル、プロデューサー)といっしょに曲を聴きながら、ベースや、スネアや、ギターの音とかを聴いてると、〈こんな雰囲気のものが作りたい〉っていうのが浮かんできたりする。それを自分たちなりのサウンドに仕上げていくんだ。逆にすごく自然に生まれる曲もあって。曲ごとに、その居場所を探してあげなくちゃいけない。それはとても大変な仕事なんだ」。

 話に出てきたゴードンとは、デビュー作に続いて本作もプロデュースを手掛けた、いわばストロークスの6人目のメンバー。当初、ナイジェル・ゴッドリッチと試しに2曲だけやったが方向性の面で折り合わず、今回もゴードンの続投となったわけだが、そこにもメンバーのサウンドに対するハッキリした意志表示が見て取れるだろう。

「彼はプロデューサーというよりもコラボレイターって感じかな。ジュリアン(彼が全曲のソングライティングを手掛けている)や、ほかのメンバーの頭の中に浮かんでいるサウンドを形にしていくのを助けてくれるんだ。プロデューサーっていう人種は、自分がやったっていう印を曲に付けていきたがるけど、ゴードンは違う。僕ら6人で仕事をするときは、バンドで作った曲に彼の奇妙なパーソナリティーを採り入れることになるんだ。彼は僕らのアレンジを変えたりはしない。あくまでも手伝いをしてくれる仲間さ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年10月30日 14:00

更新: 2003年11月20日 16:37

ソース: 『bounce』 248号(2003/10/25)

文/村尾 泰郎