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インタビュー

Jaylib

デトロイトの鬼才J・ディラと、LAの怪人マッドリブ。そんな2人のユニティーがジェイリブに結実した。ネーミングはそのまんまだけど、音のほうは果たして……!?

距離なんて関係ないよ

 ソロ、あるいはグループで別々に活動しているアーティスト同士が、あることをきっかけに意気投合し、いっしょに制作活動を行う。その活動がそれぞれのメインの活動、かつパーマネントなものになってしまえば、それは〈グループ〉と呼ばれるものになるのかもしれないけど、その一歩手前の非常に曖昧な状態がいわゆる〈ユニット〉。ユニットという存在は、パーマネントではないだけに、その活動自体が常に気まぐれであるし、逆にその気軽さが、非常におもしろい結果を産むことも多い。トライブ・コールド・クエストのプロデュース・チーム=ウマーや、自身のグループであるスラム・ヴィレッジの活動で注目を浴び、現在はソロや質の高いプロデュース/リミックス・ワークでその名を知らしめる、在デトロイトのジェイ・ディーことJ・ディラ。そして、ワイルドチャイルドおよびDJロームスとのグループ=ルートパックでデビューし、変名ソロ・プロジェクトのカジモト、そして魅惑のジャズ・プロジェクトであるイエスタデイズ・ニュー・クィンテットなどによって、ヒップホップ界のみならず、幅広い層から注目を浴びているマッドリブ。この2人によるユニットがジェイリブである。

「ディラのソロ・プロジェクトに参加するために、いっしょにスタジオに数日籠ってたことがあるんだ。結局、その時にレコーディングしたものはリリースされなかったんだけども、それ以来、お互いにビート・テープを送りあってたんだ」(マッドリブ)。

 この2人の出会いがジェイリブに発展するのに、実はもうひとつ事件が起きている。

「俺のビートのテープを使って、マッドリブがデモを作っていたらしいんだよ。それがブートレッグでリリースされたんだ。それで(マッドリブの所属する)ストーンズ・スロウに電話をしたんだ。俺の承諾なしにリリースされたからね。けど、話すうちに会話がポジティヴな方向に進んでいって、マッドリブとコラボレーションすることになったんだ」(J・ディラ)。

 そのブートレッグとは、ストーンズ・スロウがプロモ・オンリーでリリースしたレコードに収録されている“The Message”という曲であり、これが実質的にジェイリブの原型である。ストーンズ・スロウ側が勝手にリリースしたことで、双方は一触即発の危機の可能性もあったのに、最終的にはいっしょにアルバムを作る方向に進んでいったわけだから、運命とはおもしろいものである。

 その成果がこのたびアルバム『Champion Sound』としてリリースされたわけだが、制作の手順は“The Message”と同様の形を採用している。つまり、お互いが何も話し合わず、それぞれが作ったビートに勝手にラップを乗せるという、実に単純明快な方法だ。

「制作中はまったく話し合わずに作業を進めたんだ。彼が俺のビートの上でラップして、俺が彼のビートの上でラップしただけ。お互いにデトロイトとLAで離れて作業を進めたけど、まったく問題はなかったよ。そのほうが自分の作業に没頭できるし、会わないでやったほうが良かったと思うよ」(ディラ)。

「そうだね、実はいっしょにいて作るより簡単だよ。2人ともプロデューサーとして、理解し合っているし、音楽的な方向性も近いから、距離なんて関係ないよ。彼は俺のもっとも好きなプロデューサーのひとりだから、自分の曲と同じような感覚で作れた」(マッドリブ)。

 例えば、ゲスト参加するアーティストなどとまったく会わずにレコーディング作業を行うという例は多々あるが、アルバム一枚をまったく別々に作業するのは前代未聞だろう。しかし彼らはそれを成し遂げ、素晴らしい作品を作り上げた。

▼最近ローカル・リリースされているディラ・ワークスの一部を紹介。


カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年10月30日 15:00

更新: 2003年10月30日 15:13

ソース: 『bounce』 248号(2003/10/25)

文/大前 至