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インタビュー

遠く離れても心は……ふたつ。J・ディラとマッドリブのあゆみを、主要ディスクガイドと共に紐解いてみよう その1

 ディラことジェイムス・ヤンシーはウマーの一員として、その〈冷たい〉とも評されたビートで名を上げたが、ジェイムス・ポイザーらと組んだソウルクエリアンズとしては〈温かい〉音をあつらえていたり、そのプロダクションは思った以上に柔軟で振れ幅が広い。これまではインテリな捉えられ方をする機会が多かったものの、ここ最近の単独仕事ではかなりロウで粗雑な部分を前面に出しており、まだまだ見えてない〈素〉があるようにも思える。いずれにせよ、真摯にヒップホップに取り組みつつ、どうやってもその典型にはなりえないのが流石だ。

 片やマッドリブは、〈素〉の見えなさが逆に〈素〉なのだという認知も定着。ダッドリー・パーキンスがジャイルス・ピーターソンに愛されたり、ビートレスやキング・ブリットの作品にMCとして招かれたり、クロスオーヴァーの度合いも深まっているが、ディラ以上にヒップホップという様式に対する無意識のこだわりを感じさせるのも興味深い。

 なお、共に日本での人気も高いせいか、ディラはZOOCOやSHAKKAZOMBIEを手掛けた経験アリ。マッドリブはDJ Mitsu the Beatsに“m.o.o.d. for Otis”を捧げられていて、この後には共演の噂も……ジェイリブならぬミツリブに発展するかも?

Q-TIP 『Amplified』 Arista(1999) ほぼ全曲をティップとディラが共同プロデュース。後期ATCQの体脂肪率を下げたようなビートがフィジカルでフレッシュ!! ディラ印のミニマルなベースがツボにジワジワ効いてくる感じ。

SLUM VILLAGE 『Fantastic Vol. 2』 Goodvibe(2000) 98年頃に完成していたものの、プロモ音源がブート流出するなどして延期を重ねたスラム・ヴィレッジ初のフル・アルバム。コラプトをフィーチャーした“Forth & Back”などソリッドなファンク色が際立つ仕上がりではあるが、ビートの構造以上に一音の〈音色〉に耳を惹かれる傑作。ディアンジェロを迎えたモロにソウルクエリアンズ調の曲などもグーよ!!

A TRIBE CALLED QUEST 『The Love Mo-vement』 Jive(1998) テクノのレコードのようなジャケが雄弁に語るモコモコした音の位相こそがディラ効果。デトロイト好きなら“Find A Way”や“4 Moms”をぜひ。


J-88 『Best Kept Secret』 Gr-ooveattack(2000) スラム・ヴィレッジの変名ユニットによる唯一のアルバムで、SVよりはネタ感強め。マッドリブが手掛けた“Get It To-gether”と“The Things You Do”のリミックスも収録……前者はディラの勝ち。後者は五分かな。

J. DILLA 『Welcome 2 Detroit』 BBE(2001) ここからジュラ期ならぬディラ期へ。ドゥウェレやカリーム・リギンズら地元の後進を適所に配し、シンプルで真っ黒い音を披露。揺らぎ感は薄らいだが、下品でズルムケた新しいディラ節がキクゼ!!

BUSTA RHYMES 『It Ain't Safe No More...』 Flipmode/J(2002) もはやバスタに欠かせない御用達ビート職人となったディラ。ダイナミックな表題曲もカッコイイけど、“What Up”のメカニックなクールネスが駆けめぐる変態ビートは真にプログレッシヴ!

COMMON 『Electric Circus』 MCA(2002) 7曲をジェイムス・ポイザーらと共同プロデュース。デトロイト・テクノとスウィング・ジャズが融合した“Soul Power”や、幻想的な“New Wave”のモコモコ揺らぎつつも硬いボトムなんかはあきらかにディラの仕業だ。

T-LOVE 『Long Way Back』 Virgin(2003) 4曲のプロデュースを手掛け、ドゥウェレの歌唱をフィーチャーした表題曲をはじめ、主に簡素なループでソウルフルな効果を上げている。シングル曲“Who Smoked Sunshine?”の土臭くも宇宙的な広がりが気持ちいい。

SLUM VILLAGE 『Trinity』 Capitol(2002) グループからは抜けたものの、プロダクション面ではもちろんサポートを惜しまない仲間思いのディラ。4つ打ちからデトロイト・ファンクまでを自在に行き交うチンポ……じゃなくテンポの扱いも実にお上手。

produced or remixed by
J. DILLA aka JAY DEE

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年10月30日 15:00

更新: 2003年10月30日 15:13

ソース: 『bounce』 248号(2003/10/25)

文/轟 ひろみ

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