インタビュー

Incubus(2)

作品に込められた彼らの充実

「アルバムの大半はライヴ録りだった。ヴォーカル、ドラム、ベース、どれもオリジナル・テイクを使ったんですごく良かったよ。僕自身、そういうアルバムが好きだからね。なにかとズルしてごまかすんじゃなく、オーガニックにレコーディングされたものがいいんだ」(ブランドン)。

「いまどきのロック・アルバムの大半はコンピュータで作ってあるから、なんか命が吸い取られているような感じだし、完璧さが要求されているよね。でも、僕たちは欠陥だらけの人間だから、このアルバムにだってミスがそこいら中にある。でも、それが個性になって人間らしさを作っているんだ。そのことについては誇りに思っているよ」(マイク・アインジガー、ギター)。

 直しナシ。ごまかしナシ。その潔さがアルバムの勢いに繋がったのは明白だが、驚くのは本作がたった2週間でレコーディングされたことだろう。パール・ジャムやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンで有名なプロデューサー、ブレンダン・オブライエンと手を組み、彼が所有するジョージア州アトランタのスタジオに籠もった彼らは、まったく何もない環境でひたすら音楽に集中したという。

「知り合いなんて誰も遊びに来ないし、彼のスタジオはまるで楽器博物館みたいなんだよ。そうなったら音作りに専念するしかないよね。朝目が覚めてから夜眠りにつくまで、ただひたすら音楽に向かったんだよ」(マイク)。

「だからこそクリエイティヴな面でお互い後押しできたんだ。マイクがなにかを思いつくと、それに対してベン(・ケニー、ベース)が応えたりして、お互いにせっつき合っていたんだ。信頼している人間が集まるとそうなるものなんだよね。相手にインスパイアされるし、クリエイティヴな面を後押しされて、どこまで高みに持って行けるかがおもしろくなるんだ」(ブランドン)。

 考えてみると環境が大きくモノを言うバンドのようである。地元のビーチの大豪邸を貸し切ってレコーディングされた前作『Morning View』には、大自然を謳歌するようなのびやかさ、そして幼馴染みであるメンバー間の愛情深さなどが刻まれていたけれど、今回は確実にベクトルが違う。新加入したベースのベン・ケニーが持ち込んだ新鮮な空気がバンド内の士気を高め、馴染みの店もリゾートもなく息抜きする場所もない土地柄が、音楽そのものに対する想像力を膨らませた。だから、新作の印象はナチュラルというよりファンタジック。喜怒哀楽を爆発させては五感を刺激する、まるでジャケの絵のようにカラフルな世界が広がっているのだ。

「僕たちはいつだって自分の人生を反映するようなアルバムを作りたいんだ。前作での僕らはなんとなく落ち着いていたけど、今回はもっと渾沌としていて、とにかくハイパーだった。やっぱり人間だからフラストレーショも感じるし、恐怖だって感じているよ。みんなだって同じような経験をするだろう? 人生には混沌とした時期だってあるし、落ち着いて休める時期も、悲しみや憂鬱を感じる時期もある。そういったことすべてが音楽に溶け込んでいるんだと思う」(マイク)。

「ありがたいことに、僕たちには多くの面がある。ひとつの感情についての曲ばかりを作るわけにはいかないんだ。ハード・ロックの連中のなかには怒ったり愚痴を言ってばかりの人もいるけど、音楽を作るときに特定の感情が必要だとは思えない。どんな感情も重要なんだよ。人生と同じさ」(ブランドン)。

 変化を恐れない音楽的な冒険心と、自分に無理をしない自然体のスタンス。まだ20代後半だというのに、このバンドならすべてを預けてもいい、と思えるような信頼感が漂っているインキュバス。インタヴューを終えたあと、私は考えを改めることにした。最初はちょっと無謀な冒険だなぁと思えた日本武道館も、いまの彼らにはまったくもってふさわしい会場なのだ、と。

「東京の名高いコンサート会場でやれるなんて光栄に思うよ。力の限りを尽くしたいね。日本にゴキゲンな雰囲気、ゴキゲンな時間をもたらしたいと思ってる。みんなが来てくれるとうれしいな!」(ブランドン)。

▼メンバーの関連作品を紹介


ブランドン・ボイドによるアート・ブック「White Fluffy Clouds」(Sony)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年03月04日 13:00

更新: 2004年03月11日 20:15

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/石井 恵梨子