インタビュー

Incubus

新作『A Crow Left Of The Murder...』が堂々のリリース! スマートさすら感じさせるこの傑作に、アメリカン・ロックのニュー・スタンダードを宣言しよう!!

気負いを感じさせないニュー・アルバム


 ♪He~y, Mega~lomaniac……というサビのフレーズが、そろそろ頭から離れなくなっている人も多いんじゃないだろうか。インキュバスのニュー・シングル“Megalomaniac”がTVや街中を賑わせている今日。当然ニュー・アルバム『A Crow Left Of The Murder...』は早くも大ヒットを記録し、あとは初の武道館公演を心待ちにするばかりとなっているのだが、この好況にいちばん驚いているのは実はメンバー自身なのかもしれない。なにせアルバムの前評判といえば〈複雑、難解、冒険作〉であり、そのことは本人たちも十分理解していた様子だったのだから。

「僕たちはいま、新天地を開いている気がしてるんだ。独自のスタイル、独自の音楽に向かって大きな一歩を踏み出したっていうか。商業的に成功するための青写真なんてないし、生き残ろうと思っていたわけでもない。やりたいことを正直にやって、新しいものを生み出す実験精神が大事だったんだ。だから、このアルバムはみんなにとって変化球であってほしいね。聴いた瞬間〈なんだこれ?〉って思ってもらいたいんだ」(ブランドン・ボイド、ヴォーカル)。

 その〈なんだこれ?〉が結果的に〈すごいじゃん、これ〉に変わっていったのは喜ばしい限りだが、もちろんこれは偶然なんかじゃない。大胆なジャム・セッションを展開させ、ひどく混沌としていたり、ときには攻撃的だったり、たまにはユーモラスだったりするサウンド。多彩で多芸なそれは、あと一歩でテクニカル・バンドという域にまで達しているのだが、決してマニア向けの自己満足に陥らないのはエネルギーの問題だろう。楽器と戯れるのが楽しくて仕方ない。新しいものを創造していくのがおもしろくて仕方ない。新しく完成した楽曲をみんなに届けたい。アルバム全体にそういうハイなエネルギーが充満していて、何が起こるかわからないスリルにぐんぐん引き込まれてしまうのだ。これは細分化と棲み分けが明確になってしまった今日ではなかなか味わえない興奮で、強いて比較するなら、90年代初頭のアメリカン・オルタナティヴに通じる未知のパワーというべきだろう。より具体的に書くと、私はこの作品から、フェイス・ノー・モアが92年に発表した名作『Angel Dust』を思い出したのだが。

「嬉しいコメントだね。それは大いなる誉め言葉として受け取らせてもらうよ。僕はフェイス・ノー・モアやマイク・パットンのプロジェクトの大ファンだけど、『Angel Dust』は特に子供の頃のお気に入りのアルバムだった。最高に独創性に富んだアルバムだったからね」(ブランドン)。

 もちろん強い影響はいまも感じられるとはいえ、インキュバスとフェイス・ノー・モアには大きな違いがある。破天荒な伝説を数多く残し、いまではアンダーグラウンドの世界を突き進んでいるマイク・パットンと比較すると明白なのだが、インキュバスはもっとしなやかで自然体。キワモノであることをわざわざ誇張したりはしないのである。それは、情報過多の時代だからこそ本物と偽物を見極め、自分に必要のない装飾を削ぎ落とすという、21世紀ならではのスマートな佇まい。この姿勢は本作の音作りにもよく表れている。

▼インキュバスのアルバムを紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年03月04日 13:00

更新: 2004年03月11日 20:15

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/石井 恵梨子