インタビュー

トリニダード・トバゴがソカ一色に染まる熱狂のカーニヴァル──その模様を覗いてみましょう

 カリブ海の南端に浮かぶトリニダード・トバゴ。この島で生まれ、現在では他のカリブの島々でも広く愛されている音楽がソカだ。BPMでいえば140以上という高速ビートを軸に、ド派手な掛け声とわかりやすいリリックを乗せた強烈にアッパーなこのカリビアン・ミュージックが誕生したのは70年代なかばのこと。80年代から90年代にかけてはデヴィッド・ラダーやアロウといったアーティストがカリブ外での人気も獲得していたことから、〈ソカってあったよね〉という30代以上のリスナーもいるかもしれない。だが、現在のソカはデヴィッド・ラダーらのそれとは音楽性そのものが少し違う。音楽的にも人脈的にもダンスホールとの距離を縮めつつある現在のソカは、ダンスホールの現場でも頻繁にプレイされており、そのことなどをきっかけとして、これまでとは違った新たなる視点からの注目を集めようとしているのだ。セント・ヴィンセント諸島出身のケヴィン・リトルがインターナショナル・デビューしたこともそのきっかけのひとつだろう。

 本場トリニダードにおいてそんなソカが爆音で鳴らされる日――それはいわずもがな、毎年行われているカーニヴァルだ。この狂乱の祭りの際にはトリニダードがソカ一色に染まることになる。今年もそのカーニヴァルに参加し、ソカの代表的アーティストであるマシェル・モンターノのライヴでもプレイしたHEMO+MOOFIREのセレクター、HEMOに話を訊いてみよう。彼女たちは東京を中心に活動するサウンド(システム)で、ソカを採り入れたそのプレイで人気を集めている2人組だ。

「はじめてトリニダードに行ったのは2002年の2月ですね。ちょうどそのころソカに興味を持ちはじめてたんだけど、やっぱり現地に行ってみないとわからないなと思って。最初は私もソカをバカにしてたんですけど、実際カーニヴァルに行ってみたら、世界中の人が集まる理由がわかりましたね。〈こりゃあ楽しい!!〉って。私の地元は高知なんですけど、よさこい祭りとすごく似てるんですよ。アレも街全体が盛り上がる感じなので、外の音で寝れなかった子供の頃の記憶が蘇りました。

 やっぱりね、あの〈街全体〉がカーニヴァル化するところがいいんですよ。カーニヴァルの2か月ぐらい前からイヴェントがどんどん増えていって、何万人規模のイヴェントが始まるようになってくるんです。徐々にテンションが上がってきて、そのうち街全体がダンスホールになっちゃう。そんな場所で鳴らされている音楽がソカ。だから、ソカってカーニヴァルのための音楽なんですよね。リリックもカーニヴァルに関するものが多いし。

 当日はとにかくハンパないシステムを積んだトラックが、すごい爆音を鳴らしながら何百台も街を練り歩くんです。DJが乗ってるトラックもあるし、スティールパンを50台ぐらい乗せてるものもあるし、バンドが乗っているものもあるんですけど、そのトラックが200台以上行き交っていて、それにものすごい数の踊り子が付いて回るんです。いちばん有名なのは〈ポイズン〉っていうチーム。ここなんてひとつのチームで9,000人ぐらいいるんですよ(笑)。ひとつのトラックだと足りないから47セクションぐらいに分かれてる。私、今年はじめて10時間ぐらいトラックについて歩いたんですけど、最後のほうは〈お願いだから休ませて!〉って思いましたね(笑)。でも、途中からトランス状態になってくるんですよ。だからジャマイカのカーニヴァルとはちょっと別もの。スピーカーもトリニダードのほうが断然強烈だし、全然違う。だからジャマイカやNYの人もトリニダードに来るんですよね。

 私たちが出たのはマシェル・モンターノ主宰のフェテ(カーニヴァルの時期に行われるライヴ)。規模は1万人ぐらい……もっといたかな? 首都のポート・オブ・スペインから車で30分ぐらいのところにある、大きい野外クラブがいっぱいあるチャガラマスっていうところでやりました。はじめて黒人の人しかいないところで回したから、けっこうクラっちゃって。見渡す限り真っ黒でなにも見えないし(笑)。最初〈掴み〉として、みんなが好きな曲をやろうと思って(ハーフ・パイントの)“Greetings”をかけたんですよ。そのあともちろん最新のソカもかけたんですけど、すごくウケてくれて。MOOFIREがブースから出て舞台の上で煽りまくった効果もあったのかな。向こうの人はみんなバンダナを持ってイヴェントに行くんですけど、みんながそれを振り回してくれた。そのときのレポートが新聞にも載ったんですけど〈ジャマイカン・アクセントのMOOFIRE。スーパー・キャットをかけて盛り上がる〉とか書かれてました(笑)」。

 さて、なんとなくカーニヴァルとソカの楽しさは伝わっただろうか? 実際のところ、ここ日本ではなかなかソカのアルバムを入手しにくいのが現状だが、年内にはソカのビッグ・アーティストのインターナショナル・デビューも予定されているし、今回のトリニダード訪問でHEMO+MOOFIREはマシェル・モンターノらとのレコーディングを行ってきたようだから、今年はソカがもっと身近になってくるに違いない。


アロウの88年作『Knock Dem Dead』(Mango)

このページのBGMにはHEMO+MOOFIREによるワンウェイ・アルバム『ESCAPE』(Bacchanal 45)もお忘れなく。オリジナルの〈Escape〉リディムにヴァイブス・カーテルやケイプルトンらが乗った強烈な一撃です!!

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年05月13日 13:00

更新: 2004年06月03日 19:14

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/大石 始