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インタビュー

Kevin Lyttle

ケヴィン・リトルのブレイクと共にカリブの高速音楽=ソカが到来!!

ソカをネクスト・ステージへと導く新鋭


 哀愁が漂うラテンっぽいメロディーと軽やかな歌声。2003年、ヨーロッパのヒット・チャートを席巻したケヴィン・リトルのシングル“Turn Me On”の心地良さをすでに体験されただろうか? 未体験の人は急いで。春から一気に夏にフォワードすること請け合いだから。南の音楽に不慣れな人だったら、この曲がソカ初体験となるかもしれない。ソーカ、これがソカなのか……などとダジャレている場合じゃない。このケヴィン・リトルを先頭に、これからソカ旋風がやって来るぞ。

 実は〈カリブの音楽=レゲエ〉という図式はちょっと違う。カリブ諸国でいちばん広く聴かれている音楽はソカだ。NYのブルックリンで9月頭に行われるカリブ系のお祭り〈ウェスト・インディーズ・カーニヴァル〉のメインもソカ。ケヴィン本人にカリブの音楽事情について訊いてみよう。

「カリブのカルチャーは全部繋がってるんだ。ヒップホップやR&Bのようなインターナショナルな音楽と同時に、ソカやレゲエといったローカルな音楽も自然に耳に入ってくる。なかでもカリプソやソカは地元のアーティストたちも演奏するから、より〈自分たちの音楽〉という感覚があるね」。

 彼の地元は小さな島々の連なりからなるセント・ヴィンセント諸島の首都、キングスタウン。

「青い空と美しいビーチ──俺はトロピカルな場所でのんびり育ったんだ」。

 いいなぁ。おっとりしたその話し方も、ウチの札幌の母なら〈砂糖をまぶして蜂蜜で揚げたような顔〉とでも表現するであろうツルッとした甘いマスクもモロにカリブ産である。しかし、27歳のケヴィンはソカ・シンガーとしては型破りの、まさに最新型のアーティストである。

「みんなが考えていたんだけど実行を躊躇していたことをやっただけだよ。僕の音楽はソカだけど、インターナショナルなマーケットにも通じるような工夫もたくさんしているからね」。

 なるほど。では、ケヴィンは〈ソカ界のショーン・ポール〉ってこと?

「ダンスホール・レゲエはソカよりずっと認知されているから、彼は俺よりも少しは楽だと思うけどね」。

 確かに。5年生の時にボーイズIIメンの曲を少年コーラス隊で歌い、10代でダンス・クルーの一員として活躍するなど常に音楽と関わってきた彼。とはいえ、プロになるのはそう簡単なことではなく、かつては普通の勤め人をしながら機会を窺っていた時期もあるそう。2001年に112の“All My Love”(『Room 112』収録)からヒントを得て“Turn Me On”を書いたのが彼のシンガーとしての転機となった(ちなみに、“All My Love”と“Turn Me On”の聴き比べもおもしろいと思うのでぜひ)。ケヴィンはそのことについて112……もとい、P・ディディに断りを入れたが、ジャマイカのルピーはケヴィンに黙って“Turn Me On”にソックリな“Tempted Touch”を作り、しかもヒットさせてしまった。

「彼には頭にきていて、訴えるかもしれない。ジャマイカは音楽ビジネスがしっかりしていて、彼は自力でビジネスをできるのに卑怯だ。カリブの人間同士がやることじゃない」。

 うーん、厳しい口調。そうは言いながら、アルバムで伝えたかったのは「優れた音楽と才能のあるミュージシャンが蠢いているカリブに向かってアンテナを張ってほしかったんだ」とのこと。いいヤツだ。ショーン・ポールのパートナーであるジェレミー・ハーディングや、ヴェテランDJのスプラガ・ベンツ、そしてサラーム・レミなどが参加した彼のデビュー・アルバム『Kevin Lyttle』は全編ダンサブルな仕上がりで、気持ち良く聴き通せる秀作。リリックはナンパではあるものの、歌い手としてのケヴィンの姿勢は真摯だ。

「ソカがビッグになってひとつの音楽ジャンルとして認められるのを見届けたいんだ。カリブがどんな場所かはみんな知っている。寒い場所で生活している人たちや戦争中の国に住む人たち、闘いの連続のような毎日を送っている人たちに、トロピカルでヴァケーションのイメージが強いこの場所で生まれた僕の音楽を聴いてもらいたい。少しでも温まって、束の間でも休息してくれたら嬉しいね」。

 ジーン。イラクにもケヴィンの音楽を届けるべきかも知れない。

▼ケヴィン・リトルの楽曲を収録した作品を紹介

▼ケヴィン・リトルの関連盤を紹介


“Turn Me On”の原曲である“All My Love”を収録した112の98年作『Room 112』(Bad Boy/Arista)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年05月13日 13:00

更新: 2004年06月03日 19:14

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/Minako Ikeshiro