勝手にしやがれ(2)
ロックの奴が聴いて楽しめるジャズ
目の前には2人のメンバーがいる。そのひとりは武藤昭平。思春期に出会ったパンク・ミュージックを出発点に十分なキャリアを積んだ後、勝手にしやがれをスタートさせた張本人。知性と野性を併せ持つドラマーであり、そのしゃがれ声で怒りと哀惜を同時に表現しうる色気溢れるヴォーカリストでもある。彼のドラムと、ベース、バリトン・サックス。「ロックの奴が聴いて楽しめるジャズ」(武藤)を演奏すべく、勝手にしやがれは、この3つでスタートした。しかも、武藤以外、その楽器に関しては素人も同然で。
「前に俺がやってたバンドを観に来てた奴とか、打ち上げでいつのまにかいる奴だとか(笑)」(武藤)をメンバーとして迎え入れていったことからも、勝手にしやがれのスタートにテクニカルな追求というベクトルが存在しなかったことは窺える。
「でも、気持ちがあればいいし、ヘタクソでも練習すればできるようになる。テクニックがないからついていけないかもって思ってたメンバーもいたりしたけど、そういうとき俺は、〈ポール・シムノンもクラッシュで初めてベース持ってんだから! それがスタートでも『London Calling』ではすごいベース弾いてんじゃん? だから大丈夫だよ〉ってよく言ってた(笑)」(武藤)。
武藤の傍らには田浦正樹。4人目のメンバーとして加入した、柔和なムードを湛えたテナー・サキソフォニスト。
「〈うちのバリトンにサックス教えてくれ〉っていう話からはじまって(笑)。それで音聴いたら、メチャメチャかっこよくて……僕は(ジャズの)経験者だったけど、経験者から見てもすごいパワー溢れるかっこいいサウンドだった。明確なスタンスがあって。それはいまも変わらないけど」(田浦)。
「メンバーに入れてくれって顔、ずっとしてたよね(笑)」と、笑う武藤。結局、勝手にしやがれは最終的に7人の人間が集うわけだが、田浦の存在からもわかるように、〈テクニカルな追求はしない〉というある種の作意からも自由な集団なのだ。本質はそういうところにあるのではない。
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