インタビュー

Brandy

海! 青空! ブランコ! なんと晴れやかな笑顔!! プライヴェートでの辛苦を乗り越え、いっそう逞しい女性として、さらに素晴らしいシンガーとして、ブランディが帰ってきた!! その歌はますます世界を魅了して止まない!!

後悔することは何ひとつないわ


 お帰りなさい、ブランディ! 前作『Full Moon』からたかが2年程度のブランクを置いただけなのに思わずこう言ってしまいたくなるのは、彼女が前作のリリースと前後して結婚~出産、そして離婚を経験したにも関わらず、無事に新作の発表に漕ぎ着けた……という安堵感からだ。

「いろいろあったけど、これまでの人生で後悔することは何ひとつないわ。私は他の人たちと同じ普通の人間なの。泣くこともあれば、笑うこともある。バカなことをやる時もあるし……率直で直球型の人間よ」。

 いまや彼女も25歳。しかも一児の母だ。

「娘のシーライは私のアーティストとしての原動力。スターとしてじゃなく、ママである私を愛してくれるの」。

 出産直後から2年半をかけて制作したという通算4枚目のニュー・アルバム『Afrodisiac』は、ブランディいわく「これまででもっとも情熱的で元気に満ち溢れた特別なアルバム」だそう。タイトルは造語で、セクシャルな意味を持つ〈Aphrodisiac〉に〈Afro〉を掛け合わせたのだろう、アルバムに漂うのはメロウでセンシュアルなムードだ。

「今回の作品では感情を大切にしたの。よりソフトで官能的、そしてロマンティックな面を見てほしいわ。傷つきやすい私の脆さも含めて、いままで見たことのない、正直な生身のブランディを知ってほしい。いままでは世間が望むイメージに作り上げられてきた気がするけど、今回はありのままの姿をさらけ出したの。私の歌声から心の痛みや苦しみを感じ取ることができると思う」。

 痛みや苦しみ……それは前作の楽曲制作に関わっていたロバート・スミスとの離婚も指しているのだろう。彼はロドニー・ジャーキンスの従兄弟でもあったわけだが、今回は2作続いたロドニーとの共同作業もなくなった。

「辛かったわ。ロドニーとはいっしょに数多くの成功を得てきたから。でも、私の人生における一貫したテーマは〈変貌すること〉。だから今作でも単に私の経験談をまとめるのではなく、スタジオで自分が体験してきたことを細かく思い返しながら歌って、ピッチやちょっとした歌唱のミスがあっても気にしなかった。たとえ歌声が割れようとも、リアルな自分の感情を押し出したかったの。心の底から感情を露わにして歌うことがいままでの私には欠けていたと今回初めて気付いたのよ」。

 メイン・プロデューサーに選ばれたのはティンバランド。ただ革新的なだけでなく、ブランディとだからこそ生まれ得た新鮮かつ深みのあるプロダクションが耳を奪う。

「そうね。ティンバランドも今回はいままでと違うことに挑戦したかったんだと思う。私も同じで、これまでとはまったく違うスタイルでソフトに自分自身を表現したかった。大半はマイアミで作ったんだけど、マイアミはリラックスできて、ティンバランドも調子がいいらしいの」。

 ティンバランドがここまでひとりの女性シンガーに入れ込んだのは故アリーヤ以来だろうか。何だか運命的だが、ブランディ自身もそれには何かを感じたようだ。

「“Should I Go”という曲は、私やモニカ、そしてアリーヤがデビューした当時と音楽業界が大きく変わったことについて歌っているの。アリーヤが私にとってどれだけ大切な存在だったか、もし彼女がこの世に生きていたらティンバランドといっしょに3人で仕事ができただろうな、っていうエモーショナルな曲よ」。

▼文中に登場するアーティストの作品。

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掲載: 2004年07月08日 12:00

更新: 2004年07月08日 17:42

ソース: 『bounce』 255号(2004/6/25)

文/林 剛