The Prodigy(2)
子供にも聴かせてるよ
リアムの今作にかける意気込みや向上心には並々ならぬものがあり、それらが彼をよりストイックな方向へと走らせ、またマンネリ化しかけていたバンドを新鮮で健全な方向へと導いたようだ。成功にあぐらをかかず軌道修正できるあたりがリアムのいいところ、というか凄いところ。こうしてターニング・ポイントを迎えた彼は「決まったスペースで制作することがいかにダメかということもわかった」という理由で自身のスタジオを飛び出し、ラップトップと基本的な機材だけを手にロンドンやNY、そしてエセックスの自宅などいろいろな場所で自由に曲を書いたらしい。
「曲作りが楽しくて仕方がなかった昔に戻った感じだった。そしたらウソのようにアイデアがどんどん湧いてきて、そこからはあっという間に出来ていった」というアルバムにはエレクトロ、ニュー・スクール・ブレイクス、ガラージ、パンク・ロックの影響も見え隠れし、ヴァリエーション豊富なビートがイキイキと跳ね回る。ちらほらと顔を出すオタクっぷりにニヤリとさせられる場面も……。
「ビート・マニアだからね。このアルバムのために作ったネタはものすごくあって、まだ家のPCに入れっぱなしなんだよ。ビートだけでも10種類以上のものが使われず眠っている。どの曲にどのビートをはめるかというのがいちばん気を遣うところでまだ未完のものがたくさんあるんだ」。
本来ならばこれらのトラックには長年活動を共にしてきたマキシムやキースのMCも乗るはずなのだろうが、クレジットのどこを見ても名前がなくてビックリ! 何とアルバムにはまったく参加していないとのこと。その代わりといってはナンだが、ジュリエット・ルイス、オアシス、トゥイスタ、クール・キースなどあまりにビッグで多彩なゲストがズラリ勢揃い。まさかリロイに続いてマキシムやキースも脱退?
「今回、インタヴューでいちばん言いたいのは、プロディジーはいまも3人のユニットだということ。そこは変わらない。今回のアルバムのあり方、ディレクションなどは、最初から3人でとことん話しあった結果なんだ。プロディジーの根本は、ビートであり、音楽であり、新しいクリエイションであって、キースやマキシムであろうと、他の誰かであろうと、ヴォーカル曲やヴォーカリストにすべての焦点が当てられると非常に危険なんだ」。
そんなわけでひとりのヴォーカリストと全編コラボレーションということもなく、「多くのヴォーカルはセカンド・アルバムのようにサンプリングに近いものとして参加してもらっている」とあくまでヴォーカルは演出の一部に止められている。しかしいくつかの例外も。アルバムの大きなアクセントとなり、今後シングル・カットも予定されているチェーンソーの如き轟音ギターが掻き鳴らされるパンク調の“Hot Ride”に関しては、ジュリエット・ルイスの存在なくしては曲が成立しないだろう。5thディメンションの“Up Up And Away”をモチーフにしたこの曲は、気怠く、エロく、キュートで、妖艶なジュリエットの歌声が聴く者の耳を捕えて離さない。「彼女が歌うとなんとも不思議な雰囲気になって、最終的にはどのカテゴリーにも属さない独特の曲ができたと思ってる。彼女との仕事は本当に楽しかったよ。あのスクリーミング・ヴォイスは特別なものだからね」とリアムもご満悦。「プロディジーにとって非常に大切な表現方法」というライヴではどのように再現するのだろうか?とちょっと心配にもなったのだが、現在3人で話し合っているというから、どんなアレンジで我々の目の前でパフォーマンスされるのか、(いつになるかわからないけど)いまから楽しみだ。ところで、自分の子供たちにはもう聴かせた?
「もちろん、いまも聴かせているよ。あと、前作はちょっと〈?〉という感じだった親父にも〈きっとこれなら父さんもわかってくれるかもよ〉って渡しておいたよ(笑)」。
MICHAEL JACKSON 『Thriller』 Epic(1982)“The Way It Is”のベース・アレンジは何とマイケルの“Thriller”から引用! シンコペーション全開のアレンジをテキトーにエディットした感じが最高です。
TWISTA 『Kamikaze』 Atlantic(2004) ヘンテコな声ネタ循環が冴えた“Get Up Get Off”に迎えられたのはトゥイスタ! “Slow Jamz”を聴いて起用を決めたそうで、MCを活かさない贅沢な使い方もリアムらしい!?
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』 ワーナー・ホーム・ビデオ(1994) 幕開け曲“Spitfire”と“Hot Ride”で歌うはジュリエット・ルイス。殺伐セクシーな歌いっぷりのルーツは、このヒット映画に!?
THE 5TH DIMENSION 『The Very Best Of The 5th Dimension』 Arista “Hot Ride”のメロは、五次元が67年に放ったそよ風クラシック“Up Up And Away”。かったるい再現ぶりは一聴しても気付かないほどクール!
▼プロディジーと各メンバーの作品。