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インタビュー

岡村靖幸(2)

自分の意味

 しかし。ようやく夢見るグルーヴ・マスターはここに立ち上がった。ベッドルームとレコードショップを往復する日々を過ごしたヤスユキは、引き蘢っていながらも音楽をバリボリ貪り続けていた。だからテクノもヒップホップもすべて頭の中でモノにしていた。そうなのだ、簡単な話、岡村靖幸は音楽の天才なのだ。だってこの男、DJする時にヘッドフォン使わなかったりするんだよ? それでどうして2枚のレコードのビートを、音を、合わせられるのか、まったくわからない。しかし。岡村にとってビートは、サウンドは、みんな鳥かごの中の鳥のようなものだ。その鳥かごの中から岡村だけが鳥=音を解放し、本当の自由な飛び方をさせてあげるのだ。

「いまはまあ、平常心でございます。去年、イヴェントやツアーに出て、その時に強力に感じた自戒の念みたいなのがあるんじゃないですかね。〈もっと真面目に働いてリリースしよう〉って。その意志が9年ぶりのアルバムになって出てるんじゃないでしょうか。だから幸せというか、正しいことができたような気がします、いま。ずーっと……〈何とかしなくちゃ〉と思ってましたから。僕はねえ、ものすっごい自分の音楽聴きます。ものすごい聴く。なんだろう、よくわかんないけど、ものすごい聴きますね。過去のやつもものすごい聴く。盛り上がれるし……なんかすごい好きですね。……理屈抜きで」。

  今回のニュー・アルバムの中にはとびっきりへヴィーで甘美なファンクもあるし、とびっきりの夜空に包まれた公園で彼女と2人で聴きたい切ないバラードもある。バラードは極端な嘆きの旋律を奏で、ファンクは極端にマッチョなビートを打ち込んで打ち込んで打ち込む。折衷やバランスなど関係ない。ひたすら極端で本物な感情とリズムのカタマリ。これが岡村靖幸だ。

「いまはとっても奇妙な感じ。前はそんなにインタヴューって受けなかったから、みんな腫れ物に触るように扱ってたし。いまは全然知らない人たちに囲まれて、なかには僕について全然詳しくない人もいて……だから予定調和的なものが非常に少ないんですよね。もちろん不愉快な思いもするし、こういうことは絶対に僕はやらないってことも平気で言ってきたりするし、困惑もするし傷つくけれども………でもそういうところでケミストリーが生まれることもあるだろうし、活動するってことはそういうことですよ。そこには常にトラブルも渦巻いてる。でもそこで、〈もうなし!〉とか〈やめる、帰る!〉とかではなくて……帰っちゃったら何にも進まないので。物事っていろんな側面があるし、場所が変われば環境も変わる。だから推察してあげたり慮ってあげる能力っていうのは、人間の豊かな一部分だし、そこに非常にクリエイティヴを感じます」。

 刺激って何だ? 岡村靖幸とじゃれ合うってことだ。ヤスユキはこのアルバムの中でいままでのように世の中とじゃれ合うだけでなく、世の中と自分との接点を歌っている。だからタイトルは『Me-imi』→〈ミイミ〉→〈ミー=自分/イミ=意味〉→〈自分の意味〉だ。ここでは悩みや、混沌や、行き着かない愛や、争いに途方に暮れる世界や、子供心がわからない、子供がすっかり影を潜めた社会が華やかに咲き誇っている。狂っているが、泣きそうなほど楽しい。やはり岡村靖幸は圧倒的なポップ・メッセンジャーだ。

▼岡村靖幸の2004年リリース作品

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月02日 12:00

更新: 2004年09月16日 15:33

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/鹿野 淳