こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Joss Stone

あらかじめ澱み、あらかじめ枯れ、あらかじめ錆びついたジョス・ストーンのソウル・ミュージック。時を超えたその響きにふたたび世界は魂を焦がす……


「個人的には、今回が私にとっての本当のデビュー・アルバムだと思ってるわ」。

 セカンド・アルバム『Mind, Body And Soul』をリリースしたばかりのジョス・ストーンはそう話す。2003年9月のデビュー作『The Soul Sessions』は〈イギリスの16歳の白人女性がオールド・ソウルをカヴァーする〉という構図の意外さもウケて大西洋の両岸でヒットを記録。「サイド・プロジェクトがあんなにも大きなものへと姿を変えてしまったの」と振り返るように、本人にもとっても予想外の事態だったようだが、「今回のアルバムのほうがずっと良く歌えたと思う」と胸を張る。

 うわずった雰囲気の先行シングル“You Had Me”は正直どうでもいいが、アルバム中に駄曲はその1曲しかない。プレイ・ボタンを押して真っ先に流れてくる“Right To Be Wrong”を聴けば、前作に惹かれたファンは胸を撫で下ろすはずだ。ヴィンテージなオルガンの響きに、呟きと呻きの間を行き交いながら〈間違ってたっていいじゃない/放っといてよ〉と絞り出される歌唱にグイグイ引き込まれてしまう。あのジョスの歌だ。

「この曲はソウルの名曲を私みたいな女の子が歌うべきじゃないって考えてる評論家に宛てたように思われるかも知れないわね。でも、これは『The Soul Sessions』よりもずっと前に書いてた曲なの」。

 そう、今回のアルバムではジョス自身がほぼ全曲のソングライティングに参加。本人も「1年前と比べてソングライターとしての自信が持てるようになったわ」と語っている。そうやって生まれた楽曲を支えるのは前作同様にマイアミの敏腕プレイヤーたち、それ以外にも“Killing Time”の共作者がベス・ギボンス(実家が近所だとか)、“Security”でローズを弾くのがアンジー・ストーン……とトピックは多い。さらに「今回いちばんのお気に入り」という“Spoiled”は、驚くべきことにラモン・ドジャーの書き下ろし! こうしたレジェンダリーなサポート陣に注目が集まるのも前作同様だが、それはジョス自身が天から授かった歌声については特に言及する必要がないからでもある。付け加えるとするなら、前作リリース後に多くのショウを経験したこともあり、歌の押し引きが巧みになったことぐらいか。

「セッションの合間にショウもやっていたから全曲をライヴでレコーディングするのは無理だったの。でも、聴いてもらえればわかると思うけど、バンドの演奏はライヴそのものよ。オーヴァー・プロデュースもないし、プログラミングも必要以上に採り入れるようなことはなかったし」。

 ヤング・ホルト・アンリミテッドの定番“Soulful Strut”を敷いた楽しげな“Don't Cha Wanna Ride”、レゲエ調の“Less Is More”、アコギとパーカッションで簡素に飾られた“Understand”、鎮魂歌のような終曲“Sleep Like A Child”(ドラムはクエストラヴ)、とアレンジの幅を広げつつ芯を保った楽曲群はとにかく素晴らしい。日本盤には「スクール・ウォーズ HERO」公開に合わせて(うそ)、“Holding Out For A Hero”のカヴァーも収録。なお、リリース後にはツアーなども控えている様子だが、そんな状況に対して彼女は「忙しいわ」と話しつつもこう続ける。

「でも、好きよ。だってエキサイティングだし。それに、歌うことは本当に素晴らしいことだから」。

 生まれながらにしてヴィンテージな歌声がさまざまな経験を経てどのように磨かれ、あるいは穢れていくのか……想像するだけで楽しみになるのだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年10月14日 10:00

更新: 2004年10月28日 15:28

ソース: 『bounce』 258号(2004/9/25)

文/出嶌 孝次