インタビュー

Jack Johnson(2)

〈心を暖かくする〉アルバム

 あれから5年、ギター片手にゆらゆらとたなびくようにビートを刻んで歌をくゆらせるジャック・ジョンソンが、通算3枚目となるオリジナル・アルバム『In Between Dreams』をリリースした。基本的な作風は変わらないが、過去2作より楽曲のレンジの拡がりと表現力のアップが窺える、いわば、ミュージシャンシップの高い作品になっているのが大きな特徴だろう。

「実はつい最近、『On And On』をよく聴いていたんだ。っていうのも、僕には1歳になる息子がいてね、彼は歌と踊りが大好きだから、試しにこのあいだ『On And On』を聴かせてみたんだ。〈お父さん〉の声がわかるかどうかもちょっと試してみたかったしね。息子といっしょに久しぶりにあれを自分で聴いてみて、改めて良いアルバムだなぁって思ったよ。で、今回のアルバムのヴィジョンは、最初に書いた5曲“Better Together”“Banana Pancakes”“No Other Way”“If I Could”“Constellations”にあったんだ。共通点は〈心を暖かくする〉ということ。物事は時にアップ・ダウンの繰り返し、人生は時に幸せで、時に不幸で……みたいなテーマかな」。

 レコーディングは昨年10月にスタート。「出来たての雰囲気を出すため」意図的に時間をかけ過ぎないよう仕上げたという。録音場所は、お馴染みハワイはオアフ島にジャック自身が所有する〈マンゴ・トゥリー・スタジオ〉。プロデューサーも前作同様、ブラジル在住のマリオ・カルダードJrで、スタッフ/メンバー周辺もほとんど変わっていない。

「マリオは本当にユニークなアイデアをたくさん持っているんだ。僕のヴォーカルを録るときも〈マイクに思いきり近づいて歌って〉とか驚くようなことを言ってみたりして、とにかくすごく発見が多い。それに、僕ら自身、ツアーを多くやってきているからすごくリラックスしてレコーディングに挑めたんだ」。

 それにしても、なぜ彼の音楽がここまで多くの人に受け入れられたのだろう、と考えてみる。“Better Together”や“No Other Way”といった、本人も認める本作のカギとなった曲などを聴くと、まるで彼自身のフレンドリーな性格を反映させたような暖かな歌に心が溶けていく。そうした側面が、いわゆる〈和み〉的なニュアンスを伝えているのは否めないだろうし、サーフ・ミュージック、すなわち波乗りたちの〈BGM〉として愛されているのも事実だろう。だが、彼の音楽の根底にはブルースがあり、フォークがあり、あるいはスラックキー・ギターやウクレレのプレイも取り込む音楽家としてのエゴも備わっている。つまり、人としての温もりとアーティストとしてのエゴ。その中間でゆるやかに漂うことが、この人のアイデンティティーなのではないかと思う。

「僕の曲には2つの世界があるんだ。パーソナルな世界とソーシャル(社会的)な世界。僕が音楽の世界で成功している理由の一つは、メロディーもしくはサビの、いっしょに歌える部分を作るとき、人々の〈身近〉を感じさせるよう意識している点だと思う。たとえば家族や友達を招いたバーベキュー・パーティーがあるとするだろ? みんな食べ終わったころにアコースティック・ギターを持ち出してジャムる。すると突然いいフレーズが思い浮かんだりする。それがシンガロングに最高なフレーズだったりするんだ。そのフレーズを家に持ち帰って、必ず一人のときにじっくり調理していく。それが僕のパーソナルな世界が出るときだね」。

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掲載: 2005年03月10日 12:00

更新: 2005年03月24日 18:52

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/岡村 詩野