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インタビュー

Jack Johnson(3)

〈ジャック・サウンド〉の2大要素

 音楽をフィーリングで楽しむ人たちにも、コアな音楽ファンにもアピールできる包容力を持っているのがジャック・ジョンソンの魅力であるとして、では、そんな彼の音楽に個性を与えている2大要素はなにかといえば、やはりそのヴォーカリゼーションとギタープレイだろう。ジャック・ジョンソンがデビューしてきたときエリオット・スミスを思い出した、という人も少なくないだろうが、その柔らかくフェミニンな歌い回しは『In Between Dreams』でも一際輝きを増している。気候の温暖なハワイに暮らしていることも彼のそんなヴォーカルの特徴と無関係ではないのかもしれないが、意外にも長い間、彼は自身の歌にコンプレックスを抱いていたという。

「正直言うとね──決していまはそんなことはないけれど──前までは自分のヴォーカルにまったく自信がなかったんだ。作詞・作曲という意味では自信があったけどね。いまの立場になるまで一度だって自分が歌手になるなんて夢にも思っていなかったから、たとえば声など大事にしたことも気にしたこともなかったんだ。でも、僕はジミ・ヘンドリックスとかボブ・ディランが大好きなんだけど、彼らは決して究極の美声を持っているわけではない。なのに、印象深く個性のある声だよね。いまでは、僕もそうなれればいいなと思っているよ。やはり独自のスタイルは大事で、僕の場合はリラックスしてナチュラルな自分を出すってことを大切にしている。それがファンに受け入れてもらえているのかも知れないな」。

 そして、ギタープレイ。ジミ・ヘンドリックスのギターが好きという彼だが、たとえば新作のなかだと“Good People”のようなブルース・マナーを出した曲はあるものの、空気含有率が高そうなライトなタッチのカッティングはハワイのスラックキー・ギターの奏法を模したものだ。

「そう、トラディショナルなスラックキー・ギタリストのプレイには影響されているよ。なぜスラックキー・ギターが好きかというと、自然を代弁するメッセージみたいなものだからなんだ。だから、スラックキー・ギタリストと共演するのも好きだよ。ハワイアンのカヴィキ・カキアポっていうミュージシャンに言われたことがあるんだ。〈君の音楽はスラックキー・ギターを重ねて初めて完成するんじゃないか?〉ってね。彼とはこないだいっしょにセッションしたんだけど、彼が僕の歌の上にトラディショナルなスラックキーのギターを重ねてくれたんだよ。最高の音色、そしてハーモニーでね。僕にとってハワイアン・ミュージックはとても身近なものなんだ。たとえば車の運転中、いつもローカルのラジオ局でハワイアンを聴いているし、両親は僕が子供の頃からハワイアンのレコードを家でかけていた。思えば僕のまわりには常にハワイアンとサーフィンがあったね。楽譜が読めて〈調和〉のなかで音楽が奏でられる人が真のミュージシャンと呼べるのかもしれないけど、楽譜さえ読めない僕の音楽を聴いて気持ち良く踊ってくれる人もいるし、だから僕がやっているそれはやはり音楽といえるモノであり、まぎれもなくミュージシャンの奏でる音楽なんだと思うよ。のんびりしてはいるけどね(笑)」。

 確かに、ジャック・ジョンソンの音楽は特有の時間軸のもとに流れているように聞こえる。そこだけ時間の経過が遅いような、スロウモーションで動いているような、そんな生活のなかに彼の音楽は息づいているのだ。

「そういうマイペースな気持ちで音楽に向かっているのには、実は医学的な裏付けがあるんだよ。今日、病院に行ったんだ。耳鼻科。サーフィンで耳をやられちゃってね。で、病院で血圧を計ったんだけど、先生は言ったよ。〈君は通常よりかなり低血圧だし、脈拍が遅い〉ってね(笑)」。
▼ジャック・ジョンソンの関連作を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年03月10日 12:00

更新: 2005年03月24日 18:52

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/岡村 詩野