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インタビュー

LITTLE CREATURES

デビュー15周年を迎える彼らが辿り着いた先は〈名前のない音楽〉が流れる桃源郷だった!? 夜の静けさを愛し、夜に蠢く人々に贈る『NIGHT PEOPLE』!!


 モダンなサウンド──というと人によって捉えるイメージはさまざまですが、例えば線香花火が飛び散るかのようなグリッチ・ノイズの響きや、現行のR&Bに見られるような力強いコンプレッション、もしくはデジタルで過剰に変調されたヴォーカルなどの耳触りを思い浮かべる方もいるかもしれません。そういった今日的なプロダクション(の一部)は彼らの2001年作『FUTURE SHOCKING PINK』においてもすでに採り入れられ、新しい響きを聴かせてくれました。あれから4年。前作への評価は前衛アート&音楽の祭典〈sonar sound tokyo 2004〉への出演や、スウェーデンでの公演などに結実したように見えます。しかし、メンバー各々の膨大かつ良質なサイドワーク(別コラム参照)を経て届けられた彼らの新作『NIGHT PEOPLE』は、前作とはまったく異なる肌触りのサウンドであり、その響きは〈アナログ録音一発録り〉という超古典的な手法で育まれています。

「あの時(前作制作時)にすでにコンピュータを使い倒していたから、きっとその反動がきたのかな」(鈴木正人、キーボード)。

「前作でプロトゥールスを使って生演奏と絡めてやった後に、同じようなプロセスで作られた音楽を街中で聴くようになって。その作られ方を僕たちは知っているから、そこからコンピュータで(テンポ)制御されたクリック音が常に聴こえるようになってきてしまって。それに対して疲れてしまった。家で聴く音楽は、とにかく〈揺れ〉があるものを聴くようになっていたし」(青柳拓次、ヴォーカル/ギター)。

 近年の3人それぞれの音楽的嗜好、例えば青柳と栗原が参加するDouble Famousにおける多国籍かつ生々しいサウンドからその音楽性を〈エキゾティックなもの〉とばかり捉えがちですが、彼らが本陣にふたたび集まると三者のどのカラーにも寄り掛からない、不思議な中間色が生まれます。青柳いわく「たくさんの音楽を好きで聴いた後に、最終的に自分たちから提案するという感じだと思うんです。なんかこう、〈名前のない音楽〉みたいなものを作りたいというのはある」。かくして、デビュー15年目のフレッシュ盤は、ある約束事の下で制作されました。

「青柳から〈エレキ・ベースなしでやろう〉という話になって。鍵盤(フェンダー・ローズとピアノ)とスパニッシュ・ギターとドラムでやるのはどう?というアイデアを出してきた。俺はスティックを使わずにブラシで叩くことに。そういった制約のなかでどういうふうにやるか、というアイデアを考えるようになった。精進料理みたいなものですね」(栗原務、ドラムス)。

 この異色3ピース編成を中心に作られた全10曲、決してジャンルを特定できるようなサウンドではありませんが、いくつかの共通点が浮かびます。〈揺れ〉があること、アレンジ中に反復の快楽を感じさせてくれること、音にスペースが多く、非常に豊饒な空間が生まれていること、歌心に溢れていること、などなど……。

「統一感のあるアルバムがいまはすごい好きなんですよ」(青柳)。

「生でやっているけど、ミニマムなもの。前作の頃のクラブ・ミュージックっぽい要素も入っている」(栗原)。

「作り方としてはものすごく古典的なんですよね。ミキシングをやっていても(註:鈴木は今作のミキシング・エンジニアでもある)、奇を衒うようなことはほとんど一個もやっていない。その録った音を、よりよく聴かせるということしかしていなかったから。ギミックみたいなものもほとんどないし。それでも聴き返してみると、新しい感じがする。ベーシックな方法論だけど、まだすごく可能性があるのかなと」(鈴木)。

 冒頭に記したモダンなサウンド、今作においてはそもそもの遊び心とアプローチの変化が楽曲に反映されたものであるともいえそう。そしてLITTLE CREATURESの魅力は、シンプルな構成のなかで滑らかな旋回飛行をみせるアレンジ、その中心に立つ青柳のソフトなヴォーカルでもあります。また“Shadow Pictures”では、sighboatで鈴木と活動を共にする内田也哉子のヴォーカル/コーラス参加というトピックも。古典的手法から緩やかなカッティング・エッジを発見した彼らの奏でる〈名前のない音楽〉は、日常に寄り添うサウンドトラックとして、ピッタリと、末永く響いていくことでしょう。
▼LITTLE CREATURESの最近作を紹介。


2000年のミニ・アルバム『chordiary』(CHORDIARY)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年07月28日 14:00

ソース: 『bounce』 266号(2005/6/25)

文/地野 曽雌夫