インタビュー

SAIGENJI

独自のポップ・ミュージックへの飽くなき追求――リオデジャネイロにてレコーディングされた新作は、ユニヴァーサルにしてJ-Popの最新スタンダード!!


 昨年末に3枚目のアルバム『Innocencia』を発表してからも、相変わらず怒涛の本数のライヴを精力的にこなしていたシンガー・ソングライター、Saigenji。彼とライヴ会場で立ち話をしていたときに、「もう、日本には俺をプロデュースできるやつはいないからなぁ」と冗談半分にうそぶいていたのだが、そう、いま思えばこのセリフこそニュー・アルバム『ACALANTO』への伏線だった――な~んて野暮な深読みはやめておきましょう。

次は新しいことをやりたかった

〈Saigenjiがリオデジャネイロに飛んでモレーノ+2のカシンと組むらしい〉という風のウワサが流れてきたのはそれからほどなくしてからのこと。Saigenjiのバックボーンには疑うことなくギター・オリエンテッドなブラジル音楽の存在があるわけだが、これまで、あえて〈ブラジル音楽〉との距離をある程度離すことで自身のオリジナリティーを確立してきた彼が、なぜいまリオに向かったのか? ここでキモになるのは、『ACALANTO』のプロデューサーを務めるカシンが極めて開かれたユニヴァーサルな感覚の持ち主であること。Saigenjiがめざすのは、ブラジル音楽の模倣ではなく、あくまで東京発のコスモポリタン・ミュージック。いっしょにレコーディングしたかった人物がたまたまリオに住んでいたから、というだけにすぎない。

「いままでのアルバムだと、もうちょっとオブラートがかかっていたというか。今回はモロにザクッとした作りになったんで逆にJ-Popっぽくなったかも。狙ったわけじゃないんだけど言葉がすごくストレートになって、それがサウンドの上で浮き彫りになった感じ……まあ、これはいろんな人に指摘されて気付いたんだけど(笑)」。

 カシンは、シンガー・ソングライター/マルチ・プレイヤーのモレーノ・ヴェローゾ、ドラマーのドメニコ・ランセロッチとの変則ユニット(これまでにモレーノ+2、ドメニコ+2名義で2枚のアルバムをリリースしている)で活動する傍ら、MPBの大御所から若手バンドまでを幅広く手掛ける腕利きプロデューサーとしても知られており、Musha 1や宮沢和史といった日本人アーティストの作品でもグッジョブを連発している。ちなみに奥さんが日本人ということもあって日本に来る機会も多く、Saigenjiとは大阪や沖縄などで何度か顔を合わせ、意気投合して今回のコラボレーションに至った、というわけだ。

「3枚出して、次は新しいことをやりたいなと。で、彼にプロデュースをお願いした。実は向こうに行くまで何もイメージが湧かなかったけど、〈でも、カシンだったら問題なく大丈夫!〉とは思っていたしね。ヴォーカルとギターがド真ん中にあって、他の音はあくまでそれを包むように鳴っていて……こんなやり方があったのか!という感じかな。目から鱗だよ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年09月29日 12:00

更新: 2005年10月06日 20:11

ソース: 『bounce』 269号(2005/9/25)

文/佐々木 俊広