インタビュー

Boards Of Canada

いまいる地平よりも、ずっと遠い世界から届けられるような、はかなく、荘厳で、淡く、無邪気で、聴いたことはないのに懐かしい、ヴィンテージなサイケデリア。耳を澄ませば、ボーズ・オブ・カナダの蠢く音がする……

古いロード・ムーヴィーみたいに


 スコットランドに暮らすマイク・サンディソンとマーカス・イオンによる音響創作ユニット、ボーズ・オブ・カナダ(以下BOC)はどうにも不思議な存在だ。デビュー当時はマイ・ブラディ・ヴァレンタインを引き合いに称賛を受けたが、彼らは決してロック・バンドではない。また、前作『Geogaddi』は〈エレクトロニカ〉というカテゴリーの決定盤としての評価も受けたものの、マイクは「僕らはラップトップ・ミュージックを作ったことがないし、そういった音楽をあまり聴かない」とまで話しているのだ。

 ともかく、新鮮で懐かしい宅録傑作を提供してきたBOC。今年に入ってからはベック“Broken Drum”の傑作リミックスを手掛けていたが、3年ぶりとなる新作『The Campfire Headphase』での彼らはそこから翻って、懐かしくも新鮮な音楽を提供している。そこにあるのは2人がストロークするギターの音色、ゆったりと振られるシェイカー、チューニングの緩んだスネアの軋みなどが散りばめられた、木造のサイケデリア。マイペースを貫く彼らはこう語る。

「『Music Has The Right To Children』は、ヘヴィーにシンセを使ったアルバムだったし、『Geogaddi』は比較的サンプリング中心のアルバムだったから、新しいアルバムはまた異なる質感のものにする必要があったんだ。それと同時に、僕らの他の作品よりも古くてダーティーな印象のサウンドにしたかった。それで、ヴィンテージのロード・ムーヴィーみたいな音を作るためにギターを使うというアイデアが浮かんだってわけさ。ジェイムス・テイラーやジョニ・ミッチェルみたいなサウンドを回想させるような感じだね。だから、ジャカジャカしたギターの乾いた音色には物凄くこだわった。BOCをやる前はもっとギターを使っていた時代もあったんだよ。クラウト・ロックやガレージ寄りのサウンドをやっていた80年代の雰囲気をいくらか今作に採り入れたかったんだ」(マーカス)。

 いわゆる〈エレクトロニカ〉という枠組みに収めるには、若手ラップトップ・アーティストと世代を隔てているBOCは、そもそも80年代から活動するヴェテラン。ゆえに今作では彼らのめざす〈ヴィンテージのロード・ムーヴィーみたいな音〉を実現するために、多様な音楽体験のひとつを取り出してみたということだろう。例えば“Dayvan Cowboy”での幾重にもフィードバックするギターにシューゲイザーの影を見い出す人もいるかもしれない。
▼ボーズ・オブ・カナダの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年10月27日 18:00

更新: 2005年11月04日 18:05

ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)

文/リョウ 原田