The Darkness
〈地獄への片道切符〉を手に、ドラマティックでセクシーなサウンドを掻き鳴らす愛の戦士が還ってきた! さぁ、発車ベルが世界一危険な旅の始まりを告げているぞ!!
直感でピンときたんだ!
「コールドプレイが3枚も同じようなアルバムを作ったいま、彼らのファンだっていい加減ウンザリしているはずだぜ。そういうファンにはちょっと刺激が必要なんだよ。俺たちのアルバムを買ったほうがいい。たまにはマトモな音楽を聴いたほうが身のためさ」。
と、どこまで本気か知らないが、大風呂敷を広げるヴォーカルのジャスティン・ホーキンス。往年のロック・スターぶりをパロっているのか、マジでロック・スターなのか、イマイチ判別できないダークネスではあるけれど、ニュー・アルバム『One Way Ticket To Hell...And Back』に関しては、相当自信があるようだ。
「前作との最大の違いは、おそらくサウンドそのものさ。すごく広がりがあって、パレットにいろんな色が乗っている、といった感じのサウンドだね。いろんなレコーディング・スタジオでやったのも、それぞれに目的があってのこと。それぞれのスタジオが持ってるヴァイブや、壁による音の吸収具合に至るまで、細心の注意を払ってレコーディングされている。その結果を反映したのが、このアルバムなのさ。なにせ前作はたった2週間で慌ただしく作られたアルバムだったからね」(ジャスティン)。
デビュー・アルバムとなる前作『Permission To Land』は本国UKだけで150万枚、全世界で350万枚という驚異的なセールスを記録し、ついには〈レディング〉&〈リーズ〉の2大フェスでヘッドライナーを務めてしまった彼ら。当然ながら新作を作るにあたってはプレッシャーも大きかったことだろう。だが、そんなプレッシャーをも跳ね除けて、彼らはよりいっそうダイナミックで可憐(?)なサウンドと共に還ってきた。それも強力な切り札を引っ提げて。な、なんと、今作ではクイーンのプロデュースを手掛けたロイ・トーマス・ベイカーを引っ張り出してきてしまったのだ。
「直感だよ。出会った瞬間にすぐさま彼が素晴らしい仕事をしてくれるだろうってピンときたんだ。彼と同じように活躍してきたプロデューサーたちでも、実際に会ってみると顔つきや態度が疲れきっていたりとか……。それに俺は彼の存在を6歳くらいから知っていたしね。それだけ彼が偉大なプロデューサーだっていう証拠だよ。俺たちは作品に求めているものが同じだった。つまり単なるヒット・アルバムではなく、アーティスティックな面において満足できるアルバムを作りたかったんだ」(ジャスティン)。
「彼はオールド・スクールなプロデューサー。バンドが持ってる最良の部分を引き出してくれる。最近のプロデューサーっていうのは、そういうやり方をわかっていない。彼らは最新のテクノロジーのことはわかっていても、バンドの最良の部分を引き出す術を知らないんだよ。ところがロイときたら、目を瞑っててもできてしまうんだ」と続けるのは、新入りベーシストのリッチー・エドワーズ。
そういった言葉とは裏腹に、どうやら彼らが今回めざしたサウンドは、自分たちのベストというよりも、ロイ・トーマス・ベイカーのベストだったと言えるのかも。
「ああ、どのビートからも、どのドラム・サウンドからも、どのストリングスからも、それにキーキーした音やオナラの音、あと口笛からも、ロイ・トーマス・ベイカーの経験ってやつが聴こえてくる。〈これぞロイ・トーマス・ベイカー!〉っていうサウンドに仕上がってるよ」(ジャスティン)。
つまりクイーンのファンなら気に入ること間違いなし。実際には〈ロイがスタジオでどんなマジックを起こしたの?〉と尋ねてみると、〈マジック〉という言葉に敏感に反応したリッチーは「いやいや、その曲はやらなかったよ」と、クイーンの“A Kind Of Magic”のことを喋り出す。
「あの曲はクイーン後期のアルバムに収録されていて、彼は関わっていなんだ。だからあのアルバムはヒットしなかったのさ……と言いたいところだが、実際はとんでもなくヒットしたんだよな」とジョークをかまして、すっかり単なるクイーン・ファンと化してしまう。
またリッチーは、「ロイの〈マジック〉は笑いだったかも」と教えてくれる。アルバム制作中は、常に笑いが絶えなかったそうだ。それに加えて二日酔いも。そんなレコーディング時のムードは、ロック・スターにとっての切迫した恐怖──つまりは、ハゲになる恐怖を歌った“Bald”にも反映されているようだ。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2005年12月08日 17:00
更新: 2005年12月15日 19:05
ソース: 『bounce』 271号(2005/11/25)
文/村上 ひさし