安藤裕子(2)
色彩に富んだ楽曲が生まれるひみつ
〈なんか偏ってない?〉とは言いながらも、『Merry Andrew』に収められた楽曲たちの印象は、そう言うほどでもない。たしかに、神秘的なオープニング“ニラカイナリィリヒ”をはじめ〈ゆったりとした曲〉が多いかも知れないが、バックを務める矢部浩志、大田譲(共にカーネーション)、鈴木正人(LITTLE CREATURES)、ASA-CHANG、TOKIE、スカパラ・ホーンズ、沼澤尚、沖山優司、坂田学……らによる表情豊かなアンサンブルによって、楽曲にはさまざまな体温、色彩が与えられているのだ。そして彼女いわく、サウンド・プロデューサーとディレクターを交えた3人での〈合議制〉作業も、色合いに富んだ楽曲を生み出すきっかけになっていると。
「初めて3人で作り上げた曲が“サリー”(同名のファースト・ミニ・アルバム収録)という曲なんだけど、これってすごくポップなの。私の中で、こんなに明るくて可愛らしい曲が出来ることなんて、それまでなかったんですよ。人といっしょだったらこういう曲も出来るんだって。自分の気持ちもアップになってるんだっていうのが形に表れたのがすごく嬉しくって。で、だんだんと仲良くなっていくにつれて、3人が作りたいと思うものが近づいていくんですよ。お互い信頼があるから〈遊び〉もできるし、それがすごく楽しい。だからリラックスできる」。
とにかく、彼女の真価がさらに発揮されたと断言できる『Merry Andrew』は、現時点での彼女の最高傑作になったと言えよう。このアルバムで2006年の幕を開ける、安藤裕子の前途は明るいと見た。
「どうも(ニコリ)。でも、どうなんだろう……自分ではわかんないですね。なんか、完結感がないんですよね。『Middle Tempo Magic』を作った後も、もう別の曲を作りはじめててそっち向いちゃってたし、今回も出来上がった作品を愛でるみたいなことは全然してなくて、〈次のプリプロいつ?〉みたいな感じなんですよ。触りかけて止まってる曲を早くどうにかしたいと思ってイライラしてるとか、相変わらずそんな感じです(笑)。作っちゃったものは吐き出しちゃったものだから、曲が完成したら興味が薄れるんですよ。気分的にいちばん盛り上がってるのはプリプロとレコーディングのとき。あと、自分がいちばん気持ち良くなれて達成感があるのは、そんなに回数やってないですけど、ライヴなんだろうなって。そう、ライヴで歌って思ったんですけど、歌って気持ちいいのは感情的に強い曲のほうが、なんか発散した感があるんですよね。私の曲って、人前に強い欲とか感情を出さない曲が多いじゃないですか。そう考えたら、聴き手にどうアタックしていくのかはわかんないけど、〈強い曲〉をもっといっぱい作りたいなぁと思った。もちろん、聴いて楽しい曲も作りたいけど……それはまあ、今後の話」。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2006年01月26日 17:00
更新: 2006年02月02日 19:03
ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)
文/久保田 泰平