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インタビュー

早くも「レイ」を超えた、演技者ジェイミー・フォックスの魅力

 ジェイミー・フォックスは94年にアルバム・デビューしているだけあって、歌もピアノもこなせるが、彼とレイ・チャールズとの身体的特徴に共通点はない。決して似ていればいいということではないけれど、少なくとも映画「レイ」(2004年:以下すべて本国での公開年)を観ている間、似ている似てないではなく(かなりのメイクが施されてはいるが)、すっかりジェイミー=レイであると思い込まされてしまうほどの強烈な存在感に圧倒されてしまった。だからこそ、彼にオスカー(アカデミー主演男優賞)が与えられたはずだ。彼が実在の人物を演じたのは、これが初めてではなかった。「レイ」の撮影に入る前の2003年にはケーブルTV用の映画「クリップス」では、ストリート・ギャング〈クリップス〉の創始者の一人で、後に殺人罪で死刑を宣告されて(昨年12月に刑が執行されてしまった)獄中にありながらもノーベル平和賞候補にまで推されたスタンレー“トゥッキー”ウィリアムスを演じ、ゴールデン・グローブ賞のTV用映画部門で最優秀男優候補にまで上がったのだった。そもそも、彼の知名度アップに最初に貢献したTVシリーズ「The Jamie Foxx Show」で、96~2001年の長きに渡ってジェイミーが演じた〈ジェイミー・キング〉は、親戚のホテルで住み込みで働きながら本物に全然似ていない物真似を得意(?)とする俳優志望の青年だった。こうした経験が役作りのうえで、うまく活かされたのではないだろうか。例えば、このたび映画でニーナ・シモンを演じることになったメアリーJ・ブライジは、身体的特徴に共通点のない実在の人物を演じるにあたり、〈「レイ」のジェイミーのように演れれば理想的〉と発言している。

 もっとも、ジェイミーの演技力も決して短期間で身につけたものではない。コメディアンとしてはリチャード・プライアーを、シリアスな演技ではデンゼル・ワシントンを手本にしているという彼は、スタンダップ・コメディアンとしてショウビズ入りしている。89年、ガールフレンドにけしかけられて上がったコメディー・クラブのステージにおけるパフォーマンスが注目され、TVの「In Living Color」(2パックとも共演している)や「Roc」に出演するチャンスを掴んだのだ。映画デビューは92年、ロビン・ウィリアムス主演の「トイズ」。その後、96年の「ファイト・マネー(The Great White Hype)」、97年の「ダブル・デート(Booty Call)」、98年の「ザ・プレイヤーズ(The Players Club)」、99年の「砂漠でホールド・アップ!(Held Up)」と、日本ではブラック・ミュージック・ファンを中心に映画そのものよりも、むしろそのサントラ盤のほうに馴染みのあるコメディー作品を主軸に出演し続け、興行的にも客の呼べる映画俳優として認知されるようになってゆく。

 そんな彼が、アメリカの人気コメディー俳優という枠を超え、〈演技者〉として最初に注目された作品は、何と言っても99年の「エニイ・ギブン・サンデー」だろう。おもしろいことに、劇中でアメリカン・フットボールのプロ・チームのクォーターバックとして大抜擢されたのをきっかけに、(鼻持ちならない奴だが)人気選手として一大ブレイクしてしまう(ラップ・ビデオまで作ってしまう)ウィリー・ビーマン役を演じるジェイミー自身も、当初キャスティングされていたが降板したショーン・コムズ(ディディ)の代役として急遽抜擢されたのである。おまけに、ジェイミーはハイスクール時代に実際にクォーターバックとして活躍していたという事実まであった。良くも悪くも、オリヴァー・ストーン監督らしい〈いやみ〉を効かせるには、コムズの起用理由もよく理解できるが、その役をジェイミーが演ったことによって、作品のトーンや作品そのものの着地点さえ、当初想定していた場所と変わってしまったのではないだろうか。

 変わってしまったと言えば、この作品以降に初めてジェイミー・フォックスを知った観客は、彼が人気コメディー俳優だ(った)とは、にわかに信じがたいに違いない。そうした変化をすっかり遂げたのが、先に挙げた「クリップス」と「レイ」の間に出演した「コラテラル」(2004年)だった。ジェイミーは、この作品を撮ったマイケル・マン監督と2001年の「アリ」で初めて組み、今年の夏に公開される「マイアミ・バイス」、さらには2007年公開予定の「Damage Control」にもキャスティングされるほど信頼されている。衆知のとおりマイケル・マン監督は、蒼みがかった世界で繰り広げられる男と男の一対一の駆け引きをスタイリッシュに描くことにこだわり続けていて、コメディーとはもっとも縁遠い映画を作っている人なのだから決定的だ。そんなわけで、日本でも公開されたばかりの「ジャーヘッド」(2005年)を観てみると、ジェイミー・フォックスは、決して主役を張っているわけではないけれど、「レイ」のイメージとは完全に切り離されたところで、もはや〈いい俳優だなあ〉と呟くしかないだろう。ビヨンセと共演する年末公開の「ドリームガールズ」でのいままでとは違う役回りにも大いに期待できる!

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「砂漠でホールド・アップ!」(ソニー・ピクチャーズ)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月23日 17:00

更新: 2006年03月23日 23:38

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/小林 雅明

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