インタビュー

フルカワミキ(2)

私以外のすべての人や環境が〈鏡〉

 ところで、そんな本作を通じて感じるのは〈サイケデリック〉というキーワード。ソフトに空間が歪んでいくかのような音の感触や歌詞の世界は幻想的かつ耽美的で、ときに現実的でもある。音楽は、ふとした瞬間に意識を日常空間から別のところへ運んでくれる力を持っているもの――彼女はそんな音楽の力を信じている。

「私は、非日常な光景とか発言って、実は現実とすぐ隣りにあって行き来してるものだと思うの。歌詞でも、ちょっと幻想的な言葉を使っていても実は現実的だったり、超皮肉言ってたりするしね(笑)。それを自分でも楽しんでる感じ。やっぱり現実をわかってないと、その表現も曖昧になる。私も夢見がちな面はあるけど、現実はちゃんと見てるから(笑)」。

 それでは『Mirrors』というタイトルに、彼女はどんな意味を込めたのだろうか。彼女の言う〈鏡〉とはまさに、〈日常と非日常の入り口〉というべき存在なのか……。

「出来た曲を並べて聴いた時に、これは〈自分の過去の経験や積み重ねから出た、いまの自分なんだよ〉って気付かせてくれる鏡のようなものだと思ったんです。あと〈フルカワミキが個人で前へ出ていく時に、人の意見や感想を直接訊くことができるもの〉って意味にもなるし。それに、私の存在意義をより明確にしてくれるものだし。私以外のすべての人や環境が、全部鏡のような気もするしね」。

 彼女とデザイナーの宇川直宏が作り上げた初回限定のジャケットも、本作の楽曲と共に彼女の意思を反映した強力な作品だ。

「私の挙げたキーワードがジャケットには全部入ってます。6面ジャケで、繋げると輪になるんだけど、それをかぶると内側に自分が映るような鏡になってるんです(笑)。バカっぽいけど、かぶってもらえたら私のメッセージが受け取れると思う(笑)」。

 彼女のいまの思いをすべて映したと言っても過言ではない『Mirrors』。最後に本作を作り上げての感想を訊いてみた。

「普通に生きてて〈私ならこうするのに〉とか、〈もっとこういうのがあったら良いのに〉って思う音楽が出来たし、詰まってると思う。最初にこういうのを出したかったから、ホントに満足してる。幅広くいろんな人に聴いてもらいたいな、と思っています。いろんな音楽を好んで聴く人たちには、私が何をやろうとしてるかっていうことがわかってくれると信じてるから。届いてほしいなって思ってます」。

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掲載: 2006年07月27日 21:00

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/土屋 恵介