インタビュー

Bugz In The Attic

1ページでわかるバグズ・イン・ジ・アティックの世界!!


街や地域の名前が音楽を知るうえでのキーワードとなることは少なくないが、ドラムンベース以降のプロダクションにハウスやジャズといった多彩なアイデアを加え、高い自由度でフュージョンさせたブロークン・ビーツの代名詞的なエリア=ウェスト・ロンドンもそのひとつだ。

 ウェスト・ロンドン・シーンのスーパー・グループ、バグズ・イン・ジ・アティック。同地きっての才能が集まったプロジェクトだが、最初からスーパー・グループだったわけではない。現在はオリン・ウォルターズが所有しているという、屋根裏にあるフィル・アッシャーのスタジオで〈ハエの死骸〉を発見してふと口走った言葉に由来する風変わりな名前のプロジェクトは、10年もの活動歴がある。多少のメンバーの出入りを経て現在の8人となったバグズは当初、各々知る人ぞ知る存在だったが、個々のソロや別名義、メンバー間でのプロジェクトでその名を上げていく。バグズ自体もクラブ・カルチャーの法則に則り、レーベルのビタースウィートや〈Co-Op〉パーティーの活動と並行して、数々のリミックス・ワークで名を上げてきたが、彼らが手掛けたリミックスをまとめた2004年の『Got The Bug』、そこに収録された“Booty La La”の大ヒットも相まってオリジナル・アルバムへの期待は上昇。このたび登場した『Back In The Dog House』(“Booty La La”も再収録)は、まさに待望といえるアルバムだ。

「スタジオのことを〈Dog House(犬小屋)〉と呼んでいるんだ。俺たちが避難できるちょっとした隠れ処なんだ」(オリン)。

 逸材揃いで個々の活動もビジーなコンボだけにスタジオ・ワークは混沌としていたようだ。

「これだけ多くの人が、それもバラバラの個性が関わっていて、みんながみんな〈自分の作品だ〉って思っているわけだからね。ひとつの台所に料理長が大勢いることは確かだよ。でも、アルバムは信じられないくらい素晴らしいものに仕上がった。ここまでの苦労を考えるとね」(セイジ)。

 音楽の背景も〈八人八色〉だが、各曲がそれぞれに何らかのジャンルを志向しているわけではなく、一度〈犬小屋〉で完全な融合を果たしたうえで、耳を疑うようなバグズ・プロダクションへと完成されている。ブロークン・ビーツはもちろん、ブットいベースラインが導く肉感的なファンクに、ビタースウィートなソウル、緻密なエレクトロニカのタッチと、瞬間瞬間で何かを思い出させつつも、どこかひとつの場所に帰属しないサウンドが鳴り響く。ウェスト・ロンドン周辺ではお馴染みのベンベ・セグエや、リール・ピープルで知られるヴァネッサ・フリーマンらによるヴォーカルをフィーチャーした曲がほとんど。ヴォーカル・パートをプロダクションとより密接にしたトラックは、歌ものという簡単な説明では不十分なほどの豊かな発想がある。

「俺たちはダンス・アルバムを作りたかった。でも、それ自体、けっこうな挑戦だ。 上手くやってのける人はそう多くない。でも、俺たちはありがちなものはやりたくなかった」(オリン)。

 エレクトロニックなら〈未来〉なのか、風変わりなことをやっていれば〈進化〉なのか。〈未来〉とか〈進化〉なんて言葉は容易く使えるものじゃない。しかし、ここに何かが変わりそうな、胸が躍るような感覚があるのは確かだ。さて、どうだろうか?

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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年08月03日 21:00

更新: 2006年08月04日 12:24

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/栗原 聰

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