インタビュー

Kasabian(2)

それぞれの個性を活かしたんだ

 確かに、グルーヴのダイナミズム、ロック・クラシックと早くも呼びたいほどに壮大な音圧とメロディー、冒険を恐れぬ大胆な曲調転換をひとつの曲に収めるテクニック――そういったサウンドの側面をみても前作からの違いは明確だ。そのあたりに影響を及ぼしたもうひとつの理由が、レコーディングのシチュエーションの変化だろう。ジム・アビスがプロデュースを手掛けたことだけは変わらぬものの、今回はウェールズにある名スタジオ、ロックフィールドで作られている。つまり、デビュー作を作っていたときは単なるレイヴ好きの兄ちゃんだったのが、今作はUKで100万枚以上のセールスを記録した〈期待の存在〉として臨んだレコーディング。しかも、約2年半ぶりのスタジオ入り。いい意味でシンプル極まりないカサビアンとしては、そのあたりが〈やってやるぜ〉という気合いに繋がっただろう。

「でもまあ、真剣に仕事に向かっているのは1日に3時間程度で、それ以外はテキトーにやっていたな。スタジオなんてそんなもんだ。13時~16時ぐらいの時間帯にすべてが順調に流れはじめる。それ以外の時間はただブラブラしてたけど」(サージ)。

「昼休みには美しい野原を散歩したりとかさ」(トム)。

「あとはTVを観たり」(イアン)。

「料理長を怒鳴りつけたりもね。トムはレコーディングよりも、料理長にいちゃもんつけているときのほうが真剣だったからな」(サージ)。

「魚料理は嫌いじゃないぜ。でも週3回も食わされてみろよ。テーブルに並べながら〈おいしいサーモンが入りました〉なんて言われたら〈またかよ!〉だ」(トム)。

 まったくもう、どこまでがパブリック・イメージ作りのためのおバカ発言で、どこからが本気なのか……。4人揃うと互いに茶々を入れまくるため、本音のありかを探るのに苦労する。ここはいちばん口数の少ないクリス・エドワーズ(ベース)に助けを求めよう。彼はそのサウンドの変化の理由についてこう語る。

「今回はそれぞれの個性を活かした、ということかな。それぞれ違う音楽に影響を受けてきたわけだからね。基本的にサージはメイン・ソングライターとして歌詞と、核となるアイデアを提案する。それを全員でじっくりと検討するんだ。今回はひとつの部屋で頭を突き合わせてその場で曲を作ったから、当然前作との違いがあきらかに出てきたね。そうやってそれぞれの個性がうまく出たからこそ、それが全体のサウンドに繋がったんじゃないかな」(クリス)。

 確かにアレンジの豊かさは、メンバーの音楽的ヴォキャブラリーの豊かさともイコールなのだろう。どれもアコギ一本で再現可能と思えるほどに曲の骨格がしっかりしている一方で、アレンジの巧みさと組み合わせの妙技がそれ以上のものをもたらしている。加えて、かなり変化した歌詞も音の多様性に影響していることは間違いない。

「前作では世界のことについて取り上げた。でも今回は自分たち自身について語っているんだ。つまり、もっとパーソナルという意味でね。そろそろそういう歌詞を書いてもいいんじゃないかと思ったんだ。人々の心に残るし、ベッドルームで口ずさむこともできる。だから以前よりも共感しやすくなったと思うよ」(サージ)。

 見えない敵を想定して夢中で旗を振っていたデビュー作。そこをスタート地点に、自分たちが目にし、手にしたものをちゃんと形にしていったのがこの『Empire』なのかもしれない。意外なほどに地道。しかし成長とは、つまりそういうことだったりする。

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掲載: 2006年09月21日 12:00

更新: 2006年09月28日 22:38

ソース: 『bounce』 279号(2006/8/25)

文/妹沢 奈美