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インタビュー

Stacie Orrico

シンプルに突き詰められた、歌とサウンドの柔らかで秘めやかな関係……虚飾を脱ぎ捨て、裸の歌を手に入れた新生ステイシーが歩きはじめる!


 日本だけで90万枚ものセールスを上げた前作『Stacie Orrico』とは、行き方のまったく異なるアルバムだ。ステイシー・オリコ、3年ぶりのニュー・アルバム『Beautiful Awakening』。時折ロック的なギター音なんかも混ぜた華やかなポップR&Bを志向していたのが前作だとするなら、今作では華やかさが後退し、代わりに柔らかで落ち着いたムードが全体を包んでいる。〈派手なのは私の性に合わないの〉──ステイシーはそう言いたげであり、1曲目の“So Simple”でも〈派手な服はあなたにあげる/すごくシンプルに。シンプルに〉と歌っている。まさにその歌どおりのサウンド志向。飾るのをやめ、シンプルなプロダクションで、メロディーに力点の置かれた曲を歌っている。決して黒くはないが、ネオ・ソウル的と言えなくもないオーガニックな風合いが耳に心地良い。
「一日が終わって、ベッドルームでくつろいでいる時に聴いてもらえるようなアルバムを作りたかったの」。

 20歳になったステイシーは、そのように話す。

「本当に新鮮な気持ちで今作の制作に臨むことができたわ。ソウル~R&Bのテイストが前に出ているのは、もともとそういう音楽が好きだから。いろいろ聴くんだけど、マックスウェルとかフロエトリー、ローリン・ヒル、ディアンジェロなんかはオールタイム・フェイヴァリットなの。別に洗練された大人の曲を作らなきゃって意識したわけではないのよ。自分がいろいろ経験したことを踏まえて曲を作っていったら、自然にこういう感じになったっていうか。まあ、それなりに大人になったってことかしらね(笑)」。

 実は2004年2月の来日公演以降、みずからの意志でしばらく音楽業界から離れていたステイシーだったが、その間の「普通の女のコとしての生活」によって、自分らしいあり方に気付き、それが作品に反映されたわけだ。また、「実は付き合った人がいたの。もう別れてしまったのだけど……」と彼女は告白したりもする。その恋愛体験は、それまでの彼女の価値観を大きく変えたんじゃないかと僕は読んでいる。敬虔なクリスチャンの家庭に育ち、もともとクリスチャン・ミュージックのレーベルからデビューしたステイシーにとって、以前は〈音楽としてのR&B〉が好きだったとしても、R&Bの性的なリリックは受け入れ難いものだったはずなのだ。よって前作にそのような曲はない。だが今作の、例えば“I Can't Give It Up”を聴いていただきたい。〈耳元で囁きかける声のせいで私の息は荒くなる。BGMにはマーヴィン・ゲイ〉と歌い、彼女は〈ああ〉などと息を漏らしてまでいるのだ。驚くべき変化。いや、いいじゃないですか。こういうセンシュアルな歌詞もちゃんと書いて歌えるようになったなんて。

「自分の内側にあった壁のようなものを、いかに崩せるかがひとつの課題だった」。

 そんなことも彼女は言っていたが、いろんな壁を崩すことができたからこそ、こういう曲も歌えるようになったわけで。ねぇ。

 ちなみにその曲を手掛けたシェイクスピアをはじめ、ケイ・ジー、アンソニー・デント、それにラッパーでもある気鋭のノヴェルあたりが特にネオ・ソウル的な意匠の曲でステイシーの〈オトナの女部分〉を際立たせることに成功している。とりわけディープ・ソウル風の“Wait”などでステイシーのエモーショナルなヴォーカルを引き出したノヴェルの仕事には光るものがあるが……。

「彼は凄く自由にやらせてくれる人で、最高に気が合ったの。〈ディアンジェロっぽくやりたいの!〉〈OK。じゃ、早速やってみよう!〉なんて感じでね。今作で私がいちばん気に入っている曲? ズバリ、ノヴェルといっしょに作った“Wait”よ!」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年09月21日 13:00

更新: 2006年09月21日 20:29

ソース: 『bounce』 279号(2006/8/25)

文/内本 順一