インタビュー

Othello

ジャジーでメロウでグッド・ヴァイブなヒップホップ? じゃあ、誰が本当にフレッシュか、そろそろ白黒ハッキリさせようぜ!


 「『Classic』は、当時の自分を表す作品としては完璧なものだったと思う。オセロというアーティストをこの世に紹介するという意味では、その役目を果たしたと言えるよ。だけど、今回の『Alive At The Assembly Line』こそが〈僕のレコードだ!!〉と言える初めての作品なんだ。もちろん『Classic』がなければ今回のアルバムもなかったと思う。なぜなら『Classic』は僕にとって完璧な〈踏み石〉となる作品だったから」。

 芳しい生音の響きとコンシャスなラップがフレッシュな肌触りを編み上げていたヒプノティックスとの『Classic』を〈踏み石〉とは……。だけど、このたびリリースされたオセロのファースト・ソロ・アルバム『Alive At The Assembly Line』を聴くと、そういう形容にも納得せざるを得ない。いまでこそライトヘッデッド(以下LH)の3分の1としても名を馳せる彼だが、『Classic』はそこに加わる以前に「ショウのブッキングを得るために作ったデモテープ」を元にした、いわば〈習作〉だったのだ。もちろんその美しい聴き心地は何ら錆びることがないにせよ、本人の意志としては当然、じっくりとコンセプトを練り上げて生み出した新作こそ真の自身を表現した作品だということになるのだろう。

 「リリックを書き始めたのは2004年のツアー中で、その頃からコンセプトやアイデアをまとめながら、誰に関わってもらおうか考えたりしていた。レコーディングを始めたのは同じ年の9月だね。実は完成してから1年ほど経過しているんだけど、アルバムはいまこの時点にもマッチしたものだと言えるよ。今回はアルバムの最初から最後までストーリーのように聴けるものを作りたかった。だから、リスナーがそれぞれの曲を理解して流れに乗れるよう、ジャケットの内側で1曲ずつ楽曲紹介をしてるんだ。そういう意味ではブラッカリシャスの『Blazing Arrow』やエリカ・バドゥの『Mama's Gun』みたいなアルバムをめざしたと言っていいと思う。もちろんどんなものも真似しようとは思ってなかったけどね」。

 半数近くの曲では新たにブラック・ノーツなるバンドをフィーチャーして『Classic』以来の生音路線を継続しているが、その一方で、セルフ・プロデュースもこなせるオセロはLHメンバーが勢揃いした“Fly”を手掛けるのみで、ストロやMr J(共にプロカッションズ)、D・マイナー、イルマインドといった友人たちに大部分のトラック制作を委ねている。

「もともとはMCだからさ、他の奴らが作ったビーツを〈発見する〉のも楽しみのひとつだと思ってるところがあるんだ。家でメシを作るのもいいけど、外食がエキサイティングなのと同じような感覚だね!」。

 他にもライフセイヴァーズのヴァーサタイルや、ブレイル“Together Not Alone”でも歌っていたオリヴィア・ワーフィールドらが参加した『Alive At The Assembly Line』は、現時点でのオセロの集大成的な一枚だと見ていいだろう。それと同時に、玉石混淆なジャジー&メロウ系サウンドの氾濫に対して〈玉〉たるものの基準を提示する作品としても聴くことができそうだ。

 なお、最近結婚したオセロは、LHのホーム=ポートランドを離れてミシガンへ移住している。そうなるとグループの今後も気になるところだが、「2人との間に物理的な距離はできたけど、相変わらず頻繁に連絡し合っているから問題はないよ。次作についても話をしているけど、それについてはまだ〈謎〉としておこうか」とのこと。では、そのようにグループとして、ソロとしてますます飛躍していくオセロに、自身の音楽にキャッチフレーズを付けてもらって本稿の結びとさせていただこう。

「〈ソウルフル・ヒップホップ〉とか〈フィール・グッド・ヒップホップ〉……もっと簡単に言うと〈ミュージック〉だね!」。
▼『Alive At The Assembly Line』に参加したアーティストの作品を一部紹介。


ライフセイヴァーズの2003年作『Spirit In Store』(Quannum)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年09月28日 18:00

更新: 2006年09月28日 21:15

ソース: 『bounce』 280号(2006/9/25)

文/中道 ちさこ