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インタビュー

bird

人生の大きな転機を経て届いたニュー・アルバムは、これまでになくポップで柔らかなムード満点の大傑作!


 取材場所を訪れると、そこで待っていたのはbirdと彼女の赤ん坊。母親に似た大きな目をしたその子は、不思議そうに筆者を見つめては彼女の腕のなかで気持ち良さそうにまどろんでいる。2年ぶりのニュー・アルバム『BREATH』。今作の制作に取り掛かった頃、birdのお腹は彼女いわく「パンパカパン」な状態だったという。

「お腹が重くなってきたことでドシッと構えられるようになるんです。ピッチも取りやすくなるし、声も出やすくなる。その感覚を味わえたのはラッキーでしたね。同じ身体のなかに、もうひとつのリズムがある感覚っていうのは不思議なものなんですよ」。

 彼女自身が「かなり背伸びしてる曲もあるんですよ。言ってしまえば上げ底のような感じ(笑)」と振り返る前作『vacation』では、田島貴男と共に極限までコンセプトを練り上げた、彼女にとってもひとつの到達点ともいうべきアルバムだった。「だから、リセットしたくなったんですよね」というなかで訪れたのが、インドの地。その旅行を通じて『BREATH』のコンセプトの骨子が出来上がっていった。

「インドって死ぬことが身近にあるじゃないですか。日本だとすごく遠い感じがするんですけど、生きることとか死ぬこと、楽しいことが全部共存してる。それが一気に押し寄せてきて。このアルバムでは人が生活しているなかで普通に体験することを書いていければいいかなって思って」。

 生まれること/死ぬこと。出産の経験、インドで見たガンジス川の風景などがちょうどリセットを求めていた彼女のなかで交差し、今回のアルバムが作られることになった。そうした彼女のイメージ作りを優しく支えたのが、現代最高のポップ・マエストロ、冨田恵一。

「冨田さん用にプレゼン資料を作ったんですよ。〈ポップだけど、挑戦はしたい〉みたいなことを書いて(笑)。私の歌があって、そこに冨田印のサウンドがあって、っていう2本の軸があれば、どうやって泳いでいっても大丈夫だと思ってたので。もともと私のなかであったやりたいことを、冨田さんと話していくなかで作っていった感じなんですよ。やりとりのなかで生まれたことは多かったですね」。

「もう、本当に冨田さんってすごい!」と嬉しそうにbirdが話すとおり、今作における冨田恵一のプロデュース/アレンジはまさに魔法のようだ。子供の心音をビートに混ぜ合わせて〈最初の一息〉を描く“ファーストブレス”ではスペース・プログレのような世界観を作り上げ、ラテン・ジャム風のアレンジから一気にセカンドラインに辿り着く“ツツジの蜜をめしあがれ”、室内楽的なストリングスが歌声を優しく包み込む“laboratory”、モロにニューオーリンズ調の“パレード”……と挙げればキリがないほどの色鮮やかなサウンドに彩られ、birdは肩の力が抜けた軽やかな歌唱を心地良く響かせている。そのリラックスした佇まいは、彼女自身の、そして彼女の生活の変化を表しているようでもある。

「いまの私の環境からすると(と、近くの赤ん坊に目をやる)……ストイックにやろうにもやりようがないんですよ(笑)。歌詞を書くにしても、前は缶詰め状態で書いてたんですけど、いまは浮かんできたら書いて、ダメになったら止めちゃう。子供が生まれてから、時間の使い方が変わってしまったんです。すごく充実してますね」。

 bird自身が「第二章のスタート」と話す『BREATH』。呼吸をするように歌を紡ぐいまの彼女は、これまでにないほどの輝きを放っているように見えた。


沖縄限定でリリースされた〈鳥〉名義でのシングル“ファースト・ブレス”(Prunus Music)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年10月05日 20:00

ソース: 『bounce』 280号(2006/9/25)

文/大石 始