インタビュー

Will I Am

ブラック・アイド・ピーズの司令塔にして、揺るぎない地位を誇るプロデューサー。そんな人気者がみずからの女性遍歴を洗いざらい暴露? その真意は……

正真正銘の、自分のアルバム


  ウィル・アイ・アムがBBEからリリースしていた2枚のアルバムは、確かにブラック・アイド・ピーズ(以下BEP)本体とは違った感触を持つ作品だった。彼はソロ作をBEPとは一味違う実験の場と考えているのかもしれない――『Songs About Girls』を聴く前に考えていたのはそんなことだが、フタを開けてみたら、あれま~見事にポップだわ。しかもBEPにはないポップさをも持ち合わせている。何しろ、冒頭に置かれた“Over”は大ヒットをブリブリ飛ばしていた頃のエレクトリック・ライト・オーケストラ~ジェフ・リンの手法を思わせるほどだ。

「自分としては過去の2枚をソロ作だと考えていないんだ。1作はインターネット映画のサウンドトラックだったし、もう1作はコンピ的なものだった。『Songs About Girls』が正真正銘の、自分のソロ・アルバムなんだよ。だから、今回はゲストをたくさんフィーチャーした作品にはしたくなかった。それにヒップホップという枠に囚われるとエゴが強く出るから、それとはまったく関係ない、女の子についての作品、自由なメロディーがあるものを作ろうって考えた。“S.O.S(Mother Nature)”だけは究極の〈彼女〉であるこの地球と人間との恋愛関係、それもいまやメチャクチャになってきているって曲だけど」。

 その結果、完成した本作は、彼が付き合った女性たちとの体験に基づいた、言ってみれば〈歌う私小説〉的なラヴソング集だ。

「いや、小説は読まないけどね、集中力が続かないから(笑)。いままでは想像力を働かせた曲のほうが多かったかな。例えばBEPの“Where Is The Love”は友情と世界の現状を考えながら書いた曲。でも、ジョン・レジェンドに提供した“Ordinary People”と(BEPの)“Shut Up”“Don't Lie”は同じ女性との恋愛を元に書いたものだよ」。

 実際に付き合ってきた女性たちは見た目も性格もバラバラだったと彼は笑う。

「背が低い子もいたし、クールな人やクルマの故障も自分で直しちゃう男勝りの女性もいた。最初に付き合ったのはヨシミ・ナリカワっていう日本人。僕もまだ19歳で若すぎるってフラれたから(笑)、収録曲とは関係ないけどね。次の子とは20代の大半を過ごした。あと、実はストリッパーだったって子がいたり。〈いいんじゃない、僕はラッパー、キミはストリッパー。同じだよ〉ってね(笑)。それから、仕事が忙しくて長く続かなかったけど、“She's A Star”で歌っている子もいる。“She's A Star”はポロウ・ダ・ドンがビートを作ってプロデュースしているんだ。ファーギーの“Glamorous”と似た感じだね。人に提供してから〈失敗した!〉と思うこともあるから、この曲は自分のために取っておきたかったんだ。メイシー・グレイが〈歌、上手じゃない〉(とメイシーの声真似をしながら)って言ってくれたよ(笑)」。

 そんな曲の数々を、彼は愛情を込めて、時に哀惜や後悔の念を滲ませながら歌い、ラップしていく。たとえば“Heartbreaker”ではジョーの“Stutter”も思わせる吃音を使いながら、心の奥底に眠るもどかしさをも彼は歌に託す。BEPがパーティー・チューンによる楽しいポップさを前面に出しているとすれば、『Songs About Girls』で中核を成すのは哀感の滲むポップさだ。それは日本人好みの感覚でもある。

「でも、僕は決して上手い歌手ではないよ。マイケル・ジャクソンやジョン・レジェンド、メイシー・グレイ、ファーギー……彼らと歌で競うつもりはないんだ。でもね、メロディーが浮かぶ時は自分が歌う感じで思い付くわけだから、自分の歌手としての能力や限界も僕の作る音楽に役立っているとは思うよ」。

 ジャクソン5“I Want You Back”のギター・フレーズを借用した“Fantastic”も印象的な曲だ。ウィルは現在、マイケルの新曲にも関わっているという。

「彼から電話がくるんだよ。(か細い声マネで)〈Hi! This Is Michael。いまアイルランドにいるよ。いっしょになにかやりたいな〉ってね。で、飛行機でヒューって行く。そしたら今度はラスヴェガスから〈Hi!〉って。行くしかないよね(笑)。でも、BEPのライヴを観た彼にこう言われたんだ、〈キミってラップもできるんだね〉って。知らなかったんだ(笑)! “Fantastic”の、あのギターも好きさ。それと、アルバムでもっとも歌詞がパーソナルなもので〈結婚したいって思っていたのに友だちになるなんて無理だよ〉〈かつて愛してくれたのにいまは僕を憎んでいる〉〈僕が死んでも君は泣いてくれない〉って歌っている。いまは彼女に対するそんな気持ちをラジオから流れる歌でしか伝えることができないんだよ」。


ウィル・アイ・アムの2003年作『Must B 21』(BBE)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年10月04日 16:00

更新: 2007年10月04日 17:17

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/高橋 道彦