インタビュー

ゆらゆら帝国

眩しく煌めく人工的な造形美から生まれる、見事なまでの空洞――日本最強のロック・バンドがニュー・アルバムで造ったその〈空洞〉をくぐり抜けてみよう

ひたすらホワホワしたムードで


  結成から約20年弱、メジャー・デビューしてから来年で10年を迎えるゆらゆら帝国は、名曲しか、傑作しか作らない。また時代性や流行といった表層的な世界とリンクすることなく、いつでも超然としていながらフレッシュな存在であり続けている。いったいこの特異性とワン&オンリーなオリジナリティーはどこからやってくるのだろう?……なんて、〈最強のロック・バンド〉と言われ続けている彼らのニュー・アルバム『空洞です』を驚きつつも恍惚として聴きながらぼんやりと考える。

 それはさておき。ゆらゆら帝国といえば、狂暴なフィードバック・ノイズや荒々しいガレージ&時空を歪めるサイケデリック・サウンド、メランコリックなメロディーといった特長を持つロック・バンドとして認知されてきたと思うが、前作『Sweet Spot』あたりからだんだんそれらは後退していき、リズムやコード、メロディー、歌詞すべてにおいて〈引き算の美学〉的なシンプルな曲が増えてきている。また、8ビートや3コードというロック・フォーマットからも逸脱してきているのだ。

「『Sweet Spot』の時点でかなり、いわゆるロックのガツンとした感じがない方向に行ってたと思うんですけど、それがどんどんエスカレートしていって今回はさらになくて」(坂本慎太郎、ギター/ヴォーカル:以下同)。

 また、ゆらゆら帝国といえばワイルドに歪んだラフなギター・サウンドがトレード・マークだったりもするが、新作の『空洞です』はトレモロの掛かったクリア・トーンのギターとアーバンなサックスの絡み合いというイントロで始まる、スウィートなプラスティック・ソウル風ナンバー“おはようまだやろう”で幕を開けるから驚く。そして、その後も徹底して波長がゆらゆらと揺れて聴いていると頭がだんだん朦朧としてくるトレモロ攻撃にさらされることになるのだ。

「今回はトレモロしかやってないですね(笑)。ファズも使ってない。たまたまスタジオにすごいちっちゃいアンプがあって、それに付いてるトレモロにハマッちゃって。もうずっと聴いていたい、トレモロ(笑)。バチバチッて決まってる打ち込みみたいじゃなくて、(トレモロの揺らぎと)ドラムのリズムにズレが出てくるから曖昧にループしていくんだけど、(そのズレから来る)なんかホケホケホケホケしてるノリがすごい気持ち良くて。サックスはいい感じですよねぇ。ちょっと前だったら自分のなかでやってはいけないことだったと思うんですけど、今回の曲には入っていいかなと」。

 多くの飾りを取り去ってモノをシンプルにするってことは作り手のセンスがモロに問われるわけでもあって、なかなか勇気を要する難しい表現方法だったりもする。だが彼らは「ドラマ設定やストーリー性――サビで盛り上げて落としてとかそういうのじゃない」というように、〈ひとつのいいアイデアや骨格が決まればOK〉的な手法を今作ではさらに押し進めることになった。シンプルなリズムにコードもだいたい2つぐらいしか使ってないし、メロディーもリフレインが多く、歌詞は表題曲も含めて“おはようまだやろう”“できない”“学校へ行ってきます”など文章的な言葉のまんまな内容といった具合。それらが醸し出すのは、ただひたすら宙にぼんやりと浮いたまま、ひんやりってほどでもない低温で言い得ぬやりきれなさを引きずり続けて、エクスタシー手前で寸止めされた状態を延々と引き伸ばされているような白々しさを覚える感じだ。

「音の感触っていうか、最後までその感じでそのムードが持続するようにしようと思って。ひたすらホワホワしてて、気持ちいいような気持ち悪いような感じでずっといくっていうのをめざしたんですよ。全曲コード感もマイナーなのかメジャーなのかわかんなくて。ガーンと来るんじゃなく、痛くないパンチがずっと入ってていつの間にかそれがじわっと効いてて、気がついたら腰が立たなくなってたみたいな感じ(笑)。戦い方としてカッコいい感じじゃないんだけど、いまはそういうほうが有効なんじゃないのかなっていう妄想があって。宙に浮いたまま、上にも昇らず地面にも着地しないでずっといるような」。

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掲載: 2007年10月11日 00:00

更新: 2007年10月11日 17:03

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/ダイサク・ジョビン