インタビュー

ゆらゆら帝国(2)

安易にみんなで盛り上がれないアルバム

 ジギー・スターダスト的な、宇宙(というか、ここでないどこか)から地球に舞い降りてきて世界を見回し、人間と触れ合い、人間が持つ矛盾に戸惑ったり、死んだはずなのに死んでないって感覚に襲われて、最後はまた地球(=人間)にさよならをして無限の宇宙へ旅立っていくという、前作を踏襲したような全体の流れを持つ今作。彼らは結成当初から、〈死〉から生きていることのどうしようもない空しさや儚さといった〈空虚感〉を見るという、〈あの世〉からの視点で書かれた歌を多く発表してきたが、『空洞です』はタイトルが示すように〈プリティーなヴェイカントさ〉を重点的に表現した作品ともいえる。

「自分にとっていちばんリアリティーのある感じというか、いまの自分なりに感じる空気感や感覚が自然にこのアルバムに入ってる感じですかね」。

 アルバムのラストを飾る、甘く美しくも儚いプラスティック・ソウル的な表題曲で繰り返し歌われる〈空洞~〉という歌声にとろけながら、このバンドの特異性についてまた思いを巡らせる。

「なんとなくよく思うのは、自分はあんまりミュージシャン体質じゃないのかなって。ギター弾くのがすごく好きで歌うのも好きとか、そういうのは全然ないなぁと、やればやるほど思ってきて。とにかく単純にリスナーとしていい曲を聴きたいって言うのがまずあって、そのいい曲を自分でも作りたいっていうのが大きい気がするんですよね」。

 なるほど。坂本慎太郎という人間がバンド結成時から一貫して〈いい曲を聴きたい〉という明確で確固たる強い思いを持っていて、それを具現化するための発想力、想像力、創造力、妄想力も併せ持っていたからこそ、ゆらゆら帝国は〈傑作しか作らない最強のバンド〉であり続けているのか。「安易にみんなで盛り上がれないアルバム」――坂本がこう含みのある言葉で表する『空洞です』は、〈いい曲しか入ってない〉というシンプルな内容のアルバムだ。

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掲載: 2007年10月11日 00:00

更新: 2007年10月11日 17:03

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/ダイサク・ジョビン