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インタビュー

そもそも日本語ラップの未来は暗くない

 ひと頃のブームが去り、専門誌の休刊などの話題もあって、〈日本語ラップ不景気〉というムードが顕在化するようになって久しい。確かにコマーシャルなメディアを眺めているだけでは見えない部分や把握できない側面も多くなっているが、不景気なんてことはない。日本語ラップの未来は十分に明るいのだ。昨年のSCARS『The Album』~SEEDA『花と雨』あたりの流れを踏まえ、ファースト・アルバム『STREET KNOWLEDGE』でシーンの話題をかっさらったSIMONや、SCARSにも属するbay4Kを含む、D.Oを筆頭とした練MOTHA FUCKERZ周辺もいまや時の人と言えるだろう。また、SEEDAとDJ ISSO制作の〈CONCRETE GREEN〉シリーズやDABOプレゼンツによる〈B.M.W. vol.1〉の存在も新生代台頭の起爆剤となった。特に前者からはSD JUNKSTA、GEEK、STILLICHIMIYA、L-VOKAL、ICE DYNASTYといった面々がフックアップされている。このように、どうしてもメディアでは東京を中心としたシーンが(特にアンダーグラウンド・レヴェルでは)取り上げられてしまいがちだが、昨年末の『Rob The World』で評価を決定付けたANARCHYを擁する京都のRUFF NECKや、はたまた今年頭のシーンを賑わせた大阪のSHINGO☆西成ら関西勢の動きも忘れてはならないだろう。ここで挙げた面々は全体的にストリートを感じさせる節があるが、もちろんヒップホップはそればかりではない。サイプレス上野やCOMA-CHIといった重要な存在がいることも付け加えておこう。
(橋本 修)

SIMON 『TIME 4 GAME』 MAMUSHI(2006)
本作よりわずかに遡ってリリースされた前作『STREET KNOWLEDGE』の衝撃はいまなお鮮明だ。良い意味でUSっぽさを備えた王道的なスタイルは、そのカリスマ性を以て揺るぎないものとなる。驚くことに本作はそのさらに上を行くものである。
(橋本)

KEMUI 『BLUE SCREEN』 Pヴァイン(2007)
96年にOBOROで活動を開始していたMCが初のアルバムで完全復活を証明! T.TANAKAらが仕掛ける黒いループに乗って、90年代風のリリシズムと2000年代マナーのストリート感を叙情的に融合させる様が素晴らしい。漢やRUMIのサポートも効いた快作だ。
(出嶌)

PRIMAL 『A SLEEPING MAN -眠る男-』 Libra(2007)
MSC構成員のソロ作。ビターな現実を活写したリリックをメロウな語り口で包み込む展開が格好良く、特に“今を生きる”などの後半に渦巻くメランコリックな達観ぶりがヤバすぎる! MAKI THE MAGICらヴェテランの起用も見事に奏功した超傑作だ。
(出嶌)

YOUNG BERY 『NEVER HOLD BACK』 BIGG MAC(2007)
京都のRUFF NECKクルーでは、昨年末に大絶賛を浴びたANARCHYと並んでこの若狼もお忘れなく。GRAND BEATZやBACH LOGIC、Luchaら各地の腕利きたちが繰り出す尖ったビートに真正面から挑む、ギラギラしたマイク捌きが頼もしい。
(出嶌)

ICE DYNASTY 『DYNASTY -23 ANTHEM-』 TOKYO I.C.E(2007)
数年前から注目されてきた東京の新世代ハードコア軍団によるクルー・アルバム。318やBUZZER BEATS、タイプライターらのビートも良い出来だが、何より熱いのは集団で勢いを倍加するラップそのものだ。ソロやユニット作にも注目!
(出嶌)

GEEK 『LIFE SIZE』 KSR(2007)
ミックスCD『CONCRETE GREEN 2』への参加を皮切りに、SEEDA“Sai Bai Men”などへの客演を経てリリースと相成った初のアルバム。そのSEEDAやNORIKIYOなど近しい数名のゲスト以外はすべてホームメイド。彼らの〈リアル〉がここに凝縮されている。
(橋本)

SD JUNKSTA 『LOST SHIT』 諭吉(2007)
トータル・ヒップホップ集団のSDPで音楽面を担う6MC+4DJ=SD JUNKSTA絡みのさまざまな音源を、〈CONCRETE GREEN〉シリーズをSEEDAと共に作り上げたDJ ISSOがミックス。エクスクルーシヴなども含み、クルーとしての魅力を堪能できる。 
(橋本)

DABO 『BABY MARIO WORLD -DABO Presents B.M.W. vol. 1』 BABY MARIO/EMI Music Japan(2007)
上の世代による後進のフックアップが盛んな昨今、その先駆けは本作だったか。BESやANARCHY、SIMON、RYUZOなど30組以上のアーティストをミックスCD風に招聘。SEEDAとPAPA Bの共演も!
(出嶌)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年11月01日 21:00

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/出嶌 孝次、橋本 修