インタビュー

Radiohead(2)

ここで歌っているのは〈拒絶〉なんだ

 むろん、それは肝心の内容がついてこなければ不可能なこと。『In Rainbows』は、まず誰もがそのサウンドの質感に仰天するであろう一枚だ。レディオヘッドといえば、バンド・サウンドであれ、エレクトロニカや現代音楽寄りの音であれ、あきらかなエッジがこれまでの特徴。しかし今作は、淡く反射する光のヴェールを被ったかのようなサイケデリック効果と、ビートとメロディーが溶け合う曲調により、これまででもっとも優しく耳に馴染む作品に仕上がっている。

「いまは地球温暖化のような広く蔓延した外的危機に、自分の周りの世界が脅かされるという時代だよね。つまり温暖化っていうものによって、これまで自分の教わってきた価値観がすべて覆されたわけなんだ」。

 アルバムのモチーフを、トムはこんな言葉で語りはじめた。常に世界に目を向けていた彼ならではの視点だろう。

「多くの人がこれまで〈消費は善〉〈繁栄こそが前に進む道〉〈経済は拡大しなきゃいけないもの〉と教えられてきた。なのに、これらすべてが僕たちを破滅へと向かわせている。いったいそれをどうやって一曲の歌で伝えられるっていうんだ?って話だよ。そうは思わない!? それって『OK Computer』の頃に歌のインスピレーションの元となっていた、頻繁に襲われるパラノイアといったものとはわけが違う」。

 不安と、焦りと、そして諦めと……そこから先に導き出されたものをトムはこう分析する。

「ここで歌っているのはまさに〈拒絶〉なんだ。今回のアルバムの歌詞を表すうえで、もっとも重要な言葉は〈拒絶〉だよ。あまりに怖いから、きちんと機能するためには、そして生き続けるためには〈拒絶〉が必要なんだ。それと同時に、もっと小さい〈自分の世界〉に目を向けるしかない。自分が理解できる、自分で変えることのできる世界にね」。

 手の届く世界への優しい目線と、その外側にある脅威への不安や失望──その2つが渾然一体となり、甘さや苦さまでもをぐるぐると溶かし込んだ結果、この柔らかい音が出来上がったのは興味深い。こちらをリラックスさせるゆったりした口調で、話し続けるトム。不安を抱きつつも幸せを願う、そんな彼のインナー・ワールドの景色こそ、『In Rainbows』のような淡い色をしているのかもしれない。

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掲載: 2007年12月27日 22:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/妹沢 奈美