UNCHAIN(2)
歌を聴かせようという意識
とはいえ、たとえそれがソウルフルなナンバーでもエネルギッシュなビート・チューンでも、彼らの楽曲には一つ共通して貫かれているポイントがある。それは、歌だ。スティーヴィー・ワンダーに衝撃を受けたという谷川は、柔らかいのにしっかりと腰のあるハイトーンを聴かせることに腐心しており、単に黒っぽくあろうとするのとは別の意識を働かせていることが新作からも伝わってくる。すなわち、少しでもブラック・ミュージックに近づきたいという思いではなく、いかにして自分たちの音楽に自分の肉声で魂を注入しようとしているかという思い。それがあるからこそ、彼らは〈ブラック・ミュージックとロックの融和〉という、一見月並みな大義名分に対しても、限りない夢や可能性を見い出していられるのかもしれない。
「ソウルっぽくてもロックっぽくても、ヴォーカルをどれだけ引き立たせるか。それが歌モノのバンドである僕らがやるべきことだと思うんですよ。歌をちゃんと伝えていかなきゃってことを考えた時に、〈歌と同じ音域のギター2人がバックでどういうところに位置すればいいのか?〉とか、〈その下のどこにリズムがいればいいのか?〉が凄く大事になってくるんですよね。会話といっしょで、ヴォーカルがこう歌ったら、ギターはそれにどういうふうに応えて、ベースはどう応えて……みたいなことをちゃんとやっていけば、絶対歌は引き立つんだって」(谷川)。
「特にウチのベースとドラムはロックっぽいビートを得意としているんです。でも、リズム2人がそういう指向で、僕と谷川がどちらかと言えばソウル指向であるという組み合わせがかえってバンドをおもしろくしているんじゃないかって気がしますね。でも、メンバー全員、歌を聴かせようって意識だけは共通していると思うんですよ」(佐藤)。
オルナタティヴ・ロックの時代を通過し、その経験を底辺に従え、そこからさらに前へと歩み出て黒人音楽への憧憬をダイナミックに伝えていこうとする、言わば〈オルタナ・グルーヴ〉。夏冬のフェス中心に回転するようになった現在の日本の音楽シーンでも、そんな彼らが温かく迎えられているのは彼らが最初に好きになった音楽=Hi-STANDARDなどに代表されるメロコアやパンクに対するリスペクトを決して捨て去っていないからだ。いたずらに融和や折衷をめざしているのではなく、UNCHAINはいまも自分たちを音楽に向かわせてくれたルーツに忠実だ。その実直さが聴き手に伝わっているのだろう。
「どうあがいても黒人の歌には敵わない。それに気付いた時に、ちょっと違うアプローチをしたいと思ったんですよね。ソウルのフィールドではなく、あくまでロックのフィールドに立ってソウルを採り入れていく、みたいなことをやろうって。その時に思ったのが、やっぱり歌をしっかり聴かせるってことなんですよね」(谷川)。
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