インタビュー

ALGEBRA

注目すべき才媛がまたひとり登場した。自分の言葉で自分の歌を自分の心のままに歌うアルジェブラは、ポスト・ネオ・ソウル世代の新たなR&Bスタンダードだ!


 キダー・マッセンバーグの元から送り出されたR&B界の新しい歌姫、アルジェブラは数年前からキダーのオフィシャル・サイトに姿を現していた。すでに“U Do It For Me”など数曲もネットを通じて多くの人の耳に届いていたのだが、アルバムのテーマを決めるうえで、早くからのリスナーの反応は大きなヒントになったようだ。

「私の曲を聴いて、〈人生を変えた〉とか〈同じような経験をした〉とかメッセージを貰ったわ。それで、私の人生の目的/意図(purpose)は、誰かの心を癒す歌を歌うことだと思ったの。このアルバム『Purpose』は私の第一子。いま、ようやくその子を手放す時が来たの」。

 その生みの親であるアルジェブラ(・ブレセット)は、アトランタ出身の24歳。ゴスペルと同時に、ホイットニー・ヒューストンやアレサ・フランクリン、ダニー・ハサウェイ、ニーナ・シモンなどを聴いていたという。

「一音歌うだけで私を笑顔にしてくれるようなシンガーが大好きなの。マドンナも大好き。マドンナ、プリンス、ジャネット・ジャクソン……彼らも本当に歌うのが好きなんだなってわかる人たちだわ。そんな人たちに影響を受けてきた。グループではガイとジョデシィね!」。

 レーベル仲間で共演歴のあるジョーもそのひとりだ。

「高校の頃からジョーのCDを聴いていた。すべてが大好き! もし私がマイクだったら、たぶん蕩けてるわ!」。

 プロの歌手になろうと思ったのは高校1~2年ぐらいの時だそうで、この頃に地元でベース・ミュージックのレコーディングに参加し、112のバックでも歌っていた。シンガーになった理由を「自分で何かをコントロールできるってことが嬉しかったのかも」と話す彼女だが、その後ダラス・オースティンのレーベルと契約した頃から「自分自身の言葉で歌うということにこだわりはじめた」という。

 そう、実は彼女、アトランタの音楽シーンにはかなり前から身を置いていて、ジョイやローネイ、インディア・アリーのバックでも歌っていたのだ。今回アルバムにプロデューサーとして名を連ねているブライアン・マイケル・コックスやダニー・スキャンツらも、そんなアトランタの仲間である。と同時に、「いつも私の内に秘めたものを引き出してくれる」と言うエリック・ロバーソンとも旧知の仲で、今回はエリック一派ともコラボレート。アイヴァン&カルヴィンの起用も含めて、ここらへんはミュージック・ソウルチャイルドの作品に関わっていた彼女ならではといった感じがするが、とはいえ、クワメにもプロデュースを仰いだアルバムの内容は、キダー発というレッテルから連想されるネオ・ソウル然としたものではない。

「キダーが関わったディアンジェロやエリカ・バドゥを聴いた時の衝撃は大きかった。このシーンに欠けていて、必要とされていた何かをもたらしてくれたと思うの。でも、それは幸運でもあり、呪いでもある。私が関わってきたものから私も〈ネオ・ソウル・アーティスト〉だと決め付けられて、そういう音楽しかやらないと思われることもあるから。ただ、いまは、いわゆるネオ・ソウルの曲と(いわゆるメインストリーム調の)R&B曲が同じアルバムに入っていてもおかしくない時代になって、ディアンジェロみたいな曲とアッシャーやジョーのような曲が同じアルバムで聴けるようになった。私のアルバムもまさにそんな感じだと思う」。

 ギターを弾きながら、もしくは歌いながら曲を作っていくというアルジェブラ。アルバム曲の多くは彼女自身による作だが、例えばアイヴァン&カルヴィン作の“Happy After”などは「自分にとって大切な想いがそのまま言葉にされていた」ということで、歌う側に徹している。

「ムードも次々と変わるじゃない? そんな感じでアルバム全体がジェットコースターに乗ってるみたいに楽しいものになったと思うの」。

 アルバムを聴く限り、彼女の〈purpose〉はひとまず達成されたようだ。

▼アルジェブラの参加作を一部紹介。

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掲載: 2008年04月17日 17:00

更新: 2008年04月17日 17:11

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/林 剛