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インタビュー

ERYKAH BADU オリジネイターが世に問う、新しいアメリカのわたし


 音楽性のみならず、ファッションやマインドなどトータルな自己演出に長じることで独自の世界観を築いたエリカ・バドゥ。かつてネオ・ソウルと呼ばれたそのスタイルがシーンに大きく波及したのは衆知のとおりだ。そして、その後も自身の美意識に忠実な音楽を作り続けた彼女が、ライヴ盤を含めて通算5枚目となる新作『New Amerykah Part One(4th World War)』を完成させた。

 前作『Worldwide Underground』から4年半の間、特にここ最近はストーンズ・スロウ一派との関わりやサー・ラーの楽曲への参加など、アンダーグラウンド・ヒップホップへの歩み寄りが強まっていた。ルーツやボブ・パワーが手掛けて話題を呼んだ97年のデビュー以降、ソウル・クエリアンズやフィリー勢との蜜月などサウンド面での進化も常に耳目を集めてきたが、今回はほぼ全編をアンダーグラウンド・シーンの担い手たちと作り上げたことになる。LA地下マナーそのままの煙たいトラック上でエリカがさえずる“The Healer”、ミニマル感が呪術的でさえある“My People”という、マッドリブによる才気走った2曲も聴きものだが、本作のキーとなるのはサー・ラーの面々だ。スペイシーさと猥雑さとが混在する彼らのサウンドが核となり、特にカーティス・メイフィールド“Freddie's Dead”を引用した“Master Teacher”でのPファンク的に粘るグルーヴは眩暈を誘う。そしてアルバムは、デビュー時を思わせるジャジーな曲調でJ・ディラに捧げられた“Telephone”にていったんクローズ。その後、インタールードを挿んで華やかに始まるのは、9thワンダーによるノスタルジックな出来が話題となった“Honey”だ。シーンを総括するかのような内容は、エリカの求心力が生んだマジックなのだろう。

 最後に、今作も彼女一流のコンセプトを携えていることを付け加えておきたい。同胞に向けて綴られた歌詞のメッセージ性、そして変革を迎えるアメリカを示したであろうこの表題も、時勢を捉えたシリアスなアティテュードを強く感じさせるものだ。本作はネオ・ソウルが手本としてきた70年代の古典のヴァイブを備えつつも、現代にこそリアルに響く、2008年のニュー・ソウル・ムーヴメントを担う一枚と呼べるだろう。エリカ・バドゥの先鋭性と訴求力は、これからも音楽史に重要な道標を示し続ける。

▼関連盤を紹介。

▼近年のエリカ・バドゥ客演作を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年04月17日 17:00

更新: 2008年04月17日 17:11

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/池谷 昌之