インタビュー

HY(2)

5人が心を込めた尊いメッセージ

 さらに言えば、無垢なイメージの強いHYの歌にこうしたシビアでシリアスな視点を持ち込んだことは、バンドの表現領域を拡大させたはず。そしてシリアスさという点では、今作の大きな傾向である未来への視点は見逃せない。“この子達のために”“青い地球”では自然の大切さや環境破壊の深刻さを訴えつつ、将来を担う子供たちへの思いを表明している。

「昔は地元の海で泳げたのに、いまはヤバいなあっていう状態で、ホントに悲しい。海だったところが埋め立てられて平たい土地になってて、その土も山を削って持ってきてるんです。土を運んでる何台もの大きいトラックがゴーゴーって通ってて……」(新里)。

「自分たちもこれから結婚するだろうし、子供好きだし。ちっちゃい子供たち、いまから生まれる子供たちがどういう幼少期を過ごして大人になっていくのか……。人間性っていうのも自然をとおして作られると思うんですよ。いろんな事件が多くあるけど、ゲームばっかりやってたら、ヴァーチャルの世界と現実の世界の区別ができなくなる思うんですよね」(名嘉)。

『HeartY』を聴いてもっとも関心をそそられたのは、まだ親にもなっていない彼らが子供たちに対して特別な感情を抱く理由だったのだが、どうやらそこには沖縄という風土が関係しているようだ。豊かな自然があるからこそ、それが損なわれつつある現状への危機感。どの世代も生を謳歌する日々のなかで、受け継がれていくものが保たれている土地だからこその次世代への思い……。

「お父さん、おじいちゃんから〈昔はこの町にもウズラがいっぱいいたよ〉とか聞くんですよ。それを守るんだったらいましかない、自分たちしかいないなって思う。親は子供たちに目を向けてほしいし、自然に連れ出してほしい。子供はホントに素直で純粋だから、言葉によっていろんな方向を向いちゃう。だからちゃんと……教えてあげたいなって」(新里)。

 そう、それこそ〈純粋さ〉が代名詞だったHYというバンドは、こんなにもスケールの大きなテーマを歌うほど表現の幅を広げた。5人が心を込めた尊いメッセージ、いまを生きるすべての人たちに向き合ってほしいと思う。

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掲載: 2008年05月08日 21:00

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/青木 優