インタビュー

pupa(2)

みんなでいっしょに歌う楽しさ

 もちろん、ただユルいだけではない。原田知世がヴォーカルを取る曲は、高橋が当初思い描いていたというムームやラリ・プナ以上に緊密な空気を放っているし、カントリーをテクノで演奏してみたような立体的な融和が実現している曲もある。いずれもポスト・プロダクション的な視点から作られたような曲なのに、どこを切ってもポップな旋律がしっかり敷かれているのも魅力だ。そしてもちろん高橋が最終的にしっかりとまとめ上げたことで、ポップ・ミュージックの持つわかりやすさ、大衆性が前面に出ているのが良い。

「YMOって実はコーラス・グループでもあったんですけど、このpupaもみんなでコーラスを入れる時が凄く楽しかった。サウンド面についてはいくらでも膨らませることができたんですけど、ひとつのマイクでいっしょに歌う楽しさみたいなのもやりたかったんですよね」(高橋)。

「普通の〈せーの〉でやるバンドと違って、やってることは物凄くミニマルでシンプルなんですよ。でも、どこをフィルターで味付けするかとか、どこにミュートを掛けるか、みたいな細かいエディットでニュアンスを変えて行く。エレクトロの手法なのに結果として出来上がった作品は凄くポップで。やっぱり僕らYMOチルドレンだし、幸宏さんの影響だと思いますね」(高野)。

「こないだ(バート・)バカラックのライヴを観てきたんですけど、例えば彼やスティーヴ・ライヒとかを見ていると、自分はいったい何をやってきたんだろう? 何もやってこなかったんじゃないか?って思うんですよ。自分なりのスタンダードを探す作業っていまもずっと続いていますからね」(高橋)。

 するとすぐさま「幸宏さんがそんなこと言ったらわれわれはどうなるんですか!」と高野。すると「いや、だってさ……」と高橋。プレイヤーとしてのエゴがまったくないバンドの〈素顔〉を見た瞬間だった。

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掲載: 2008年07月23日 18:00

更新: 2008年07月23日 18:33

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/岡村 詩野