インタビュー

SAKEROCK(2)

出来上がったものに不安はない

 件のマリンバが火を放つナンバー“千のナイフと妖怪道中記”は、坂本龍一が78年にリリースしたデビュー・アルバムの表題曲“千のナイフ”と、87年にナムコが発表したアーケード・ゲームの主題歌をマッシュアップ&リアレンジするという脅威の発想から生まれた楽曲だ。

「せっかくだからマリンバを中心としたカヴァーをやりたくて、いくつかある候補のなかのひとつが“千のナイフ”だったんです。それである時〈ゲームセンターCX〉というTV番組を観てたら、〈妖怪道中記〉をクリアするって回で、曲も凄くいいなぁと。前回〈MOTHER〉のテーマ曲をカヴァーしたから、ゲーム音楽第2弾もいいかなって。で、改めて〈妖怪道中記〉の曲を聴いてたら〈あれっ?〉って(笑)。“千のナイフ”のオマージュみたいな作りになってたんです。じゃあそれをいっしょにやってみたらおもしろいかなと」(星野)。

 ファミコンに代表される、ロウ・ビット・ゲームへの郷愁を音にしてアウトプットするアーティストは現在数多くいる。が、SAKEROCKのアウトプットはあくまでバンドとしての再現。音選びやアレンジといった細かい面から、彼らなりの批評性が見えてくる。

「(ファミコンの音楽を)そのまんまやるんじゃなくて、自分のフィルターを通したアレンジをしないとオリジナリティーはないと思って。元の音源に似せたいんじゃなくて、自分の世代なりのファミコン音楽の消化の仕方をしないとカヴァーする意味がない」(星野)。

 なるほど。このように本作のバンド感にこだわったり、ゲスト陣も最小限に抑えて作られているという部分にSAKEROCKの自信を見た。ストレートにそんな質問をぶつけてみると……。

「自信は特にないです(笑)。ただ、出来上がったものに関して不安はないですね。これまで、真剣に音楽をやるということへの照れ隠しとして、(ハマケンの)スキャットを入れたりしてたんですけど、今回はミックスをしてもらったウッチーさん(内田直之)に、〈音楽として成立しているから入れなくていい〉という大人の意見をいただいて(笑)。今回は音楽でおもしろいことがちゃんとやれてるから、余計な照れ隠しに逃げなくていいんだって」(星野)。

「でも、ハマケンの押し語り(サンプラーを押しながらファンキーな語りをする浜野の持ち芸)は録音していて。だからそれを却下したらハマケン落ち込んでたよね(笑)」(田中)。

 その一方で彼らの過剰なサーヴィス精神は、音としては控えめながらも豪華なブックレットという形に結実している。

「今回は40ページくらいのブックレットを付けるんです。インストで、歌詞カードが付いているわけでもないのに2,500円以上することに抵抗があって。自分が貧乏な時に、インストのアルバムでライナーが1枚だけだったら床に叩きつけたくなったはずだから(笑)。たぶん、貧乏性なんだと思うんですけど、そういうサーヴィスは忘れたくないんです」(星野)。

 リスナー視点を持って、細部にまで真面目に取り組む。超脱力な『ホニャララ』というタイトルに反した彼らの姿勢は、エンターテイメントの核を捉えているように思う。

▼SAKEROCKの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年11月06日 22:00

更新: 2008年12月19日 14:44

ソース: 『bounce』 304号(2008/10/25)

文/ヤング係長