インタビュー

COMA-CHI

決して譲れないこの美学──痛みに震えた傷だらけの過去も、アンダーグラウンドでの実績も、遠い日のブルーも、新たな決意に染め上げられた。新しい年の幕開けを飾るのは、新しい色、新しい音、新しいCOMA-CHIだ!

生ぬるい言葉じゃ届かない


 〈あたしはハーフのスーパーモデルじゃない/社長令嬢でもリッチなセレブでもない/育成されたアイドルでもないから/ただマイク握りsurvive do or die?〉――これはCOMA-CHIを知るにもっとも相応しい楽曲“name tag(C-O-M-A-C-H-I)”の一節だ。正真正銘ストリート育ちのマイク持ち。そんなCOMA-CHIが、いよいよメジャー・フィールドへ進出する。

「昔はインディー志向でメジャーには興味なかったんですけど(笑)。2年前にファースト・アルバムを出して以降、いろんな人に客演で呼んでもらうようになって、それから自分の世界が拡がっていったというか。前までは物の見方をあえて狭くしていたし、外に対して負けたくないって気持ちが強くて、〈メジャーの人たちと私は違う〉って思ってた。でも、いざそういう人たちとお仕事してみたら、みんな凄くクリエイティヴで素敵なんですよね。なんだ、何もカテゴライズする必要ないんだなって。考え方が柔軟になっていくのを感じました」。

 その先に辿り着いたのは「もっと多くの人に自分の音楽を届けたい」――そんな純粋な思いだった。

「昔は、わかる人にわかればいいって思ってた(笑)。でもいまは、それこそヒップホップを知らない人にも私の曲を聴いてほしい。メジャーを選んだいちばんの理由はそこですね」。

 そして誕生したのが、ニュー・アルバム『RED NAKED』である。

「前作『DAY BEFORE BLUE』を直訳すると〈生理前〉で、BLUEを象徴するモヤモヤした感情を表現したものだったぶん、逆に今度はわかりやすい言葉で、あからさまなことも含めて自分自身について明確に語りたくなったんです。で、〈赤裸々〉を英語で造語にした『RED NAKED』でいこう、と」。

 確かに〈赤裸々〉というだけあって、本作ではCOMA-CHIのパーソナルな部分が大いにさらけ出されている。しかも曲順通りにリリックを辿っていくと彼女自身の心の変遷が浮き彫りになるという仕組みだ。前半で描かれるのは「女の子ならクスッてなるはず」と語る、リアルなガールズ・ライフ・ソング“girls! girls!”など、アクティヴな要素が中心。だが、中盤の“material world”では、それまでのストレートな物言いから一転、〈?〉を用いた言葉で心の迷いが描写されていく。そして自身の過去を吐露する“自傷症ガール don't cry”でグッと心の闇へ……。歌うことに躊躇はなかったのだろうか。そう思うほど彼女の心の痛みが生々しく迫ってくる楽曲である。

「リリックを書く時点では、言葉がどんどん出てきて止められませんでした。でもいざ録るって考えたときは正直、ここまでのことを声に出して歌うのは嫌だなって躊躇した部分はあります。だけど私がこういう曲を作りたいって思ったのは、かつての自分と同じようにいま悩んでる人がいるとしたら、この曲を通して少しでも明るい気持ちになってほしかったからなんですよね。生きて乗り越えれば楽しいことが待ってるよっていう。だったら生ぬるい言葉で飾り立てても届かないよな、本当に私にも苦しいときがあったことを打ち明けないとなって。まずは私から脱がないと。そう思って、凄く勇気が要りましたけどやろうって決心しました」。

 この“自傷症ガール don't cry”が持つ意味は大きい。後半の“perfect angel”“感謝”などで歌われる、辛い時期を乗り越えたからこそ見えてきた光――いまを生きる喜びがいっそう説得力を増してくるからだ。

「最初は世の中に対して攻撃的に中指を立てる姿勢があって、そこから苦しみや痛みを経験して……。最終的に辿り着いたのが大きいレヴェルでの愛、感謝。そういう私のここ数年の移り変わりをこのアルバムの流れで感じてもらえたら嬉しい」。

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掲載: 2009年02月19日 20:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/岡部 徳枝