MONO
日本が世界に誇るインストゥルメンタル・バンド、MONOが約3年ぶりとなるニュー・アルバムを完成させた。絶望の淵に沈むような前作から視点を変え、生命力に満ち溢れた物語を弦楽オーケストラと共に表現した本作について、ソングライターのTaka(ギター)に話を訊いた。
朝起きて聴いて、エネルギーが出るようなアルバム
――前作『You Are There』はダークでヘヴィーなMONOの世界観の完成形を見るような作品でした。Takaさんご自身は、どのような作品だったと振り返ってらっしゃいますか?
Taka バンドを結成するときに、当然さまざまなフォーマットを考えるじゃないですか。僕はラース・フォン・トリアーの「奇跡の海」という映画が好きで、あの映画を観たときに同じ人間としてジェラシーを覚えたんですよ。「映像と音楽でフォーマットは違うけれども、同じ表現者として、ラースはあんなにもディープな作品を作った。それなのに、なんで僕にはできないんだ?」って。その思いが、MONO結成当初のベースにはあったんです。その後、アメリカのマイクすらないようなライヴハウスから活動をスタートさせて、少しずつ認められるようになり、ヨーロッパをはじめ、世界中をツアーで巡れるようになった。はじめは日本人というだけで欧米人と対等に見られないことに対するジレンマもあったけれど、次第に認知されるようになり、自分たちが思い描いていた理想的な活動を出来るようになったんですよ。アルバムも海外で評価されるようになったので、そろそろ原点に立ち返り、ラースの映画に匹敵するような壮大な作品を作ろうと思ったんです。デビュー当時は伝えるのが難しかった作品でも、そろそろ受け入れてもらえると思ったんですね。そうして制作したのが『You Are There』でした。作品としては最もコアでディープなんだけど、「これが認められないんだったら、バンドをやっている意味がない」と思うくらい自分が表現したいことをすべて詰め込んだアルバムで、セールス的に最も結果を出すことができた。その経験は、大きな自信になりましたね。
――ブレイク・スルーとなった前作のおかげで、この最新アルバム『Hymn To The Immortal Wind』は、またさらにやりたいことが詰め込めるようになった、ということですか?
Taka そうですね。やりたいことを詰め込むことができたのにはいろいろな理由があるんだけど、まず大きい要素としては、今回のアルバム制作で初めて作曲をする時間が作れたことです。いままではすべてツアーと時間に追われながら曲を書いて、アルバムを作ってきたんですね。結局、旅の続きで曲を書いてきたわけだから、インスピレーションの源がすべて旅になってしまっていたわけで。だから今回、通常のツアーを1年間休んだことで初めて何かを生み出す作業に没頭できたんですよ。作っているものが失敗でもやり直すことができるし、何より、満足のいくものができるまで、絶対に発表しようとは思わなかった。何年でも休む気でいましたから。
――本作は弦楽オーケストラを採用し、各楽曲に対応するストーリーが存在する、コンセプチュアルな作品になっています。しかも、これまでとは違う独創的なエモーションに彩られていますよね。どのような着想から、このアルバムに取り組まれたのでしょうか?
Taka 長いワールド・ツアーに出ていると、何度も何度も、随分前に作った『You Are There』の曲をやらなくてはいけないじゃないですか。演奏しながら「僕たちはいつまでこんな暗くて重い曲をやり続けなくちゃいけないんだ!」って、段々違和感を覚え始めて……。そのときに、次に作るアルバムの構想を考えたんですよ。「次に作る作品は、エモーショナルで希望に満ちあふれる、テンポ感のある、エネルギー溢れるアルバムにしたい」と。ツアーから日本に戻って、すぐにそういう意識で作曲を始めてみたんです。でも結局、いままでのMONOとさして変わらなかった。表面上は確かに変化していたのだけれども、何だか、以前表現した事のあるような感覚がまだあって、自分では予定調和になってしまっていると感じてしまったんです。その時「これは僕が思っている以上に、変わるのは難しいのかもしれない」と思ったんですよね。その曲をすぐに捨てて、「まったく新しいMONOを作るぞ!」という思いで作り始めたのが、この『Hymn To The Immortal Wind』なんです。僕のなかでは、とにかく変わりたいという思いが強かった。生命感に満ち溢れる曲、朝起きて聴いてエネルギーが出るようなアルバム。絶対に変わってやるという誓いが、はじめからこのアルバムにはありました。
――「朝起きて聴いてエネルギーが出るMONO」は、新しいですね。
Taka 2009年は漠然と、明るい音楽が必要だと感じていたんですよ。世相的な意味でも、もう暗いのはまっぴらだった。たとえば、オバマのあの笑顔に対する期待感ってすごいじゃないですか。ブッシュの反動もあると思うけど、やっぱり笑顔は光だと思って。その光は、周りと同調すると思うんですね。僕も、そうでありたいと思ったんですよ。もう怒りや悲しみで、誰かと同調したくなかった。生き生きとしたアルバムにしたかったんです。
- 次の記事: MONO(2)