インタビュー

MONO 『Hymn To The Immortal Wind』 Human Highway



  日本が世界に誇るインストゥルメンタル・バンドが弦楽オーケストラと共に作り上げた作品――そんな前情報だけで、「あの深遠な世界観がさらに重厚に、荘厳に増長されるに違いない」と興奮せずにはいられなかったMONOのニュー・アルバム『Hymn To The Immortal Wind』。果たしてその期待は裏切られることなく、彼らは変奏曲のように刻々と変化し続ける自由度の高いロックンロールに最大限のエモーションを込めるという手法で、〈生と死〉〈輪廻〉といった哲学的な題材をリリカルかつダイナミックに描き出すことに成功している。しかも、レコーディング・エンジニアは〈その場で鳴っている音をそのまま録る〉ということに関しては世界一の腕を持つスティーヴ・アルビニ。オーケストラ・パートも含め、30人以上の感情がひとつの塊へと圧縮され、臨界点に達して爆発した際に放出される膨大なエネルギーをも音に還元した本作は、〈音楽が人の心に作用する何か〉が間違いなく存在することを証明する作品と言える。

 また、これまで以上に「新しいMONOを提示したい」という強い意志のもとに曲を作り始めたというこの作品では、言葉なき音楽に言葉が――ストーリーが与えられており、彼らの頭のなかにあるイメージをより明確にリスナーへ届ける趣向が凝らされている。ある少年と少女、ふたつの魂の救済の物語は、視覚と聴覚によって具現化され、圧倒的な説得力を持って聴き手に迫る。受け取る側の想像に多くを委ねるインスト・バンドも少なくないなか、曖昧さをキッパリと回避するその姿勢の背後には自らの音楽に対する確固たる自信が窺えるが、それが正しいものであるということは、本作を聴けば誰もが納得できるであろう。

 アートたり得る音楽の飽くなき探求――その厳粛な佇まいには畏怖の念を禁じ得ないが、本作のなかでは、それでも引き込まれずにはいられない活き活きとした生命力と、大らかに聴き手を包み込む慈愛に満ちたサウンドが鳴り響いている。絶望の淵に沈んだ『You Are There』から3年。MONOが新たに向けた目線の先には、誰の頭上にも平等に降り注ぐ、生/聖なる光が溢れている。

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掲載: 2009年02月26日 18:00

更新: 2009年02月26日 19:23

文/土田 真弓

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