MONO(2)
自分自身、どうやって曲を紡いでいったのか良くわかってない
――各楽曲に明確なストーリーを用意した経緯は?
Taka はじめは、このアルバムにベートーヴェンの〈交響曲第9番〉のようなコーラスを入れようと思っていたんですよ。それはゲスト・シンガーという形ではなくて、50人とか100人とか、そういう規模の合唱を入れたくて。今回のアルバムには、絶対に〈言葉の要素〉が必要だと思っていたので、L.Aで出会った映画の脚本家に、合唱用の歌詞を書いて欲しいと頼んだんです。結果的に、合唱が入る形の曲は今回も完成はしなかったのですが、〈言葉の要素〉は活かしたかったので、それぞれをチャプターに分け、曲と共に進行する映画のような表現を最終的にとりました。
――作曲作業も、当然変わってきますよね?
Taka とにかく新しいMONOがテーマだったので、いままで誰も聴いたことがないような、予定調和にならない音楽にしたかった。だから今回はまず、頭に浮かんだメロディーを次々と書き出したんですね。それがアルバムのどの曲のどのパートだろうが気にせずに、2か月間ひたすらにその作業を繰り返して、大量のパズルのピースを用意したんですよ。もちろん、すべてテンポもキーも、コードも違う。そのバラバラのピースを組み合わせていったら、2曲できた。そうしてできた曲に対して、僕自身すごく興奮したんですよ。まったく展開が予想できないし、そもそも曲といっていいのかどうかも不安になるくらいのシロモノで。それで、その曲を脚本家に送ってみたんですよ。そうしたら、彼女はその予期せぬ展開のひとつひとつにストーリーをつけていってくれたんですね。そこから、言葉と音楽のキャッチボールがはじまったんです。曲に対してストーリーをつけてもらったり、ストーリーに対して僕が曲をつけたり。ものすごくエキサイティングな瞬間の連続でした。僕にとって、新しい方法論が見い出せたのは大きな発見でした。ピースを組み上げてできた音楽が、自分でもなぜこういうものになったのかわからない。でも、素晴らしい音楽であることには間違いない。そしてその曲が、第三者の言葉によって物語になっていくのは、不思議な経験でした。僕が今回のアルバムをすごく好きな理由は、自分自身、どうやって曲を紡いでいったのか、良くわかっていないところなんです。元々あるべき姿に戻していくような作業でもあり、すごく神秘的な経験で。
――なるほど。でも、そのなかでアルバムとしての整合性を生み出していくのは、困難な作業だったのではないでしょうか?
Taka ただ、ひとりの人間の感情で左右されるので、どこかですべてが繋がっていて。僕はベートーヴェンがすごく好きなんですけど、今回も彼の言葉にたくさんの勇気をもらいました。「音楽に対するルールや固定概念をすべて取っ払って、まるで風に吹かれて形を変え続ける雲のように、風に吹かれて形を変え続ける波のように、まったく同じ形には二度とならない。音楽も、そうでなければならない」と彼は言っていて。それが変奏曲の成り立ちだったのですが、僕自身今回のアルバムを作っているときに、何度も「こんなに先の読めない変わり方をしていく曲でいいのか?」と悩む瞬間があったけど、ベートーヴェンの言葉のおかげで、「これでいい」と思うことができたんですよね。自由でいいんだと。