インタビュー

MONO(3)

音符と音符の間にある〈何か〉を音として鳴らす

――今回用意された物語は、どのようなお話なのでしょうか?

Taka それぞれの人が持つ魂のなかには記憶の跡があるというテーマをベースに、このアルバムとストーリーは完成しました。風は、時間、人生、または生死を超えて存在する、実際に目にすることが出来ない〈何か〉を象徴しています。一般に、人は生まれてから死ぬまでその答えを知ることが出来ない、さらには質問する事さえ無くなるような――〈何故この星があるのか、何のために人は生まれてきて、死んでいくのか、何故宇宙があるのか、何故地球は自転し、太陽の周りを公転するのか〉など、理屈では知り得ない様々な不思議のなかで実際に生活しています。それと同様のレヴェルで、ひとつの奇跡の物語を残しました。

――物語が目まぐるしく紡がれていくのが、映画のようでとてもスリリングな作品です。

Taka 僕は昔から、自分を表現できるなら、音楽である必要はないと思っていたんです。別に映画でも構わなかったけど、偶然選んだものがギターだった。なぜなら、ギターは曖昧な楽器で、僕にとって一番簡単に自分を表現出来るものだった。最近は僕たちみたいなインストゥルメンタルのバンドが増えたけど、彼らは「歌詞がないからこそ、聴き手は自由に何かを感じられる」みたいに言う。でも僕は、その曖昧さに飽き飽きしていたいたんです。これはインスト・バンドの長所であり、最大の短所でもあるわけだけど、ギターのアルペジオを繰り返せば自然とそこに「何か意味が生まれているんじゃないか?」って、みんなが思うじゃないですか。僕は、そんなことはないと思う。音楽のイメージってそんな簡単なものではないと思うし、演奏者の意図なんて、そう簡単に伝わるものではないから。ロック・ミュージックそのものがカウンター・カルチャーのひとつの形だったのに、ひとつフォーマットが生まれてしまうと、そのフォーマットをただ繰り返すだけになってしまう。それは記号の配列のようなものであって、表現ではないと思うんです。僕はもう、そういう曖昧な音楽が嫌になった。映画や小説と同じレヴェルでの表現まで、自分たちの音楽を持っていきたかったんです。僕たちがこのアルバムでストーリーを提示することによって、いままでのようなイメージを差し込む余地がなくなったと言われるかもしれないけど、この作品とリスナーがもしコネクトできるなら、もっと深く繋がりあえるのではないか。ギャンブルだけど、僕はそこにトライしたかったんです。なぜトライできるのかと言えば、僕たちにはもう信頼できるファンがいるからです。きっと受け入れてくれると信じていますから。曖昧な音楽に対して「これがいまクールなんだ」と、またさらに曖昧なものを上塗りしている音楽もあって。そういう音楽は流行と共に必ず過ぎ去っていくもので、永遠に残り得るものだと思えないので。

――弦楽オーケストラとの共演は、どのような経験でしたか?

Taka 5年前に、スティーヴ・アルビニに紹介してもらった4人のカルテットはいまも変わっていなくて、彼らとのセッションを通じて多くを学んできたので、大編成のオーケストラ・アレンジをする自信はあったんです。スタジオでは全員でライヴ録音をするので、僕達ができることといえば、ただ「すべてが上手くいくように」と祈ることだけだったけれども、思うように感情表現ができていないと感じたときは、その都度、指揮者と奏者と話し合いをしながら進めていきました。音楽理論ではなく、「ここは、何かを待つような状態から、初めてここで受け入れるような感じで……」と説明したり。奏者のみんなが、口を揃えて「譜面上は一見簡単なのに、演奏は本当に難しい」と言っていた。スティーヴは、「これが音楽のマジックなんだ」って。奏者みんなの気持ちがひとつになると、エネルギーとして増大化するんですよね、それがドラマを生み、感動を呼ぶ。ただ上手い演奏もオーバー・プロデュースも必要ない、この感動が音楽なんだといまも昔も思ってます。その音を完璧に録音してくれるのが、スティーヴ・アルビニで。彼は怖いくらいにすべてを音盤に封じ込めてくれますから。音符と音符の間にある〈何か〉を音として鳴らす。そうすることによって、はじめて納得がいくものになる。本当に音楽を作ったという実感がありますね。

――この重厚な作品、どのように楽しんでもらいたいですか?

Taka まずは音楽だけ聴いて、その後ストーリーを読んで、最後にもう一回聴くのが、ベストな聴き方かもしれないですね。そしていつかこの作品を、実際の映画にしたい。僕はレッド・ツェッペリンがすごく好きなんだけど、彼らの音楽って文化と一緒に残っているものだと思うんですよ。聴くとその時代の匂いを感じるし、その時代の風が吹いている。いまは情報の消費が速くて、生まれては消え、生まれては消えの繰り返しばかりで、永遠に残るものが生まれてこないじゃないですか。カウンター・カルチャーだったはずのものさえ増え過ぎて飽和してしまって、時代に埋もれてしまっているのが現代ですよね。僕たちの音楽って、日本にいるだけでは世界に伝えにくかった音楽だったと思うんです。でも地道にツアーを繰り返した結果、世界中で僕たちを待っていてくれる人たちが生まれた。ウェブを通しただけでは伝わらないリアルなものを届ければ、しっかりとした反応が返ってくるんですよ。そういうことをやっていかないと、文化は動かないと思っていて。理屈ではなく、ハートのある音楽作品を僕たちなりに提示していきたい。それが、今後も含めた僕たちのポリシーかもしれないですね。

▼MONOの作品

MONO world tour 2009
『Hymn To The Immortal Wind』日本公演

日時/会場:
3月11日(水) Open 18:00/Start 19:00 大阪・鰻谷sunsui(ゲスト:ha-gakure)
3月14日(土) Open 18:00/Start 19:00 東京・恵比寿LIQUID ROOM(ワンマン)
料金: 前売 3,675円/当日 4,000円(ドリンク別)

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2009年02月26日 18:00

更新: 2009年02月26日 19:23

文/冨田 明宏