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インタビュー

スペシャル鼎談!! 鈴木惣一朗 × 土岐麻子 × さかいゆう(3)

バカラックは、気持ち良い音と悪い音のギリギリのところを突いてくる

――さかいさんから見たバカラックの魅力は?

さかい 僕は〈響きフェチ〉なんですよ。まずピアノを弾いてるわけで、ギターもいいんですけど、自分の声とテンションが当たったときの気持ち良さがあって。それが、バカラックの場合はすごいシビアですね。ちゃんとそこに当たってあげないと、その音にならないというか、曲になってくれないよ、みたいな曲が多くて。例えば“Cross To You”とかも実はけっこう難しいんですよ。“Alfie”の〈Why do birds ~♪〉という、この〈バ~ズ〉がちゃんといかないと音にならないんです。そこが〈砂場のなかで新しい遊びを見つけちゃった〉みたいな感じですよね。そういうのがいちいち多い。だから、弾きながら歌ったときに「ああ、こんな響きがあったんだ」とか。でもライヴを観るとよくわかるんですけど、演奏はそんなにうまくなくて。

鈴木 粗いよね。

さかい うん、すっげえ粗い。

鈴木 あと、立つよね(笑)。急に立ち上がったりする。

さかい そうですね。とにかくバカラックの場合、リズムもあるけどハーモニーがすごいです。そういう響きが惣一朗さんの(手掛けた作品の)なかも鳴ってるし、それが鳴ってる人とやると楽しいですね。

鈴木 バカラックって気持ち良い音と悪い音のギリギリのところを突いてくるでしょ。だから曲をやる方もギリギリ(笑)。でも、そういう部分を曲から外しちゃうと何かを失っちゃうんだよね。オシャレな音とダサい音が肉薄しているように、気持ちいい音と気持ち悪い音もすごく近いところにあって、日によって、体調によって感じ方が違ってくる。多分、聴く側にとって、その微妙さはほとんど「気持ちがいい」ってところに到達されてると思うけど、それはサウンド・プロダクションによるもの。ただ、それを譜面上でやっていくと骨格が見えてきて、さっき言った階層が見えてくる。バカラックはいろんな器楽器を使ったり、コーラスを使ったり、オーケストレーションする過程でキレイに気持ち良くさせてるんでしょうね。だけども、ちょっと顕微鏡で覗くと土岐さんが言った〈怖さ〉が見えてくるというか。音楽家としてはそれが醍醐味なんですよ。

――そういう微妙なところを突いてくるのって計算なんでしょうか? それとも本能的なもの?

さかい 多分両方ともあると思いますよ。例えばバカラックがハーモーニーでやってるようなことを、井上陽水さんは言葉の響きでやってるんです。“少年時代”の歌詞の〈宵かがり〉とか〈風あざみ〉とか、そういう言葉って日本語にはないって知ってました?

鈴木 そうなの!?

さかい ないんです。だから陽水さんもバカラックも同じくらい偉大だと思いますね。歌詞でそういうことをやっちゃうのかと。

鈴木 そうだね。たんに響きとして気持ち良いだけだもんね。そういうことって音楽特有というか、音楽だけができること。つまり音楽は感覚的に聴けるから意味を問わなくてもいい。もっとファジーなもので動いているから。音楽はそこにポーンと到達できるからおもしろい、っていうのはあるんじゃないかな。

土岐 そういえば“Moon River”の歌詞って、いろんな候補があったらしいですね。だけど、〈ムーン・リヴァー〉という言葉が一番しっくりきてタイトルに決まったとか。あの曲が一番美しく聴こえる言葉だから。

鈴木 歌ってみてってこと?

土岐 そうみたいですよ、あのメロディーといちばん合った。だから〈ムーン・リヴァー〉っていう言葉から、歌詞を広げていったという話を聞いたことがあります。

――言葉ありき、っていうことですね。

土岐 言葉の響きありき。そのメロと一番合う言葉。メロが先にあって、言葉を選ぶ作業があるというか。

鈴木 土岐さんは曲先(曲を作ってから歌詞をつける)ですか?

土岐 曲先が多いですね。

鈴木 それで〈ムーン・リヴァー〉みたいにはめていく?

土岐 そうなんですよ。

さかい そのセンスが抜群なんだと思います。僕が土岐さんに書いた曲のタイトルに“How Beautiful”という言葉をつけてくれましたけど、「よくぞ!」と思いましたね。

鈴木 素晴らしいセンス。

土岐 いやいや(照れる)。

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掲載: 2009年03月12日 18:00

更新: 2009年03月12日 23:00

文/村尾 泰郎