インタビュー

CHEHON(2)

どんなオケでも乗りまっせ

 さて、メジャー・デビュー曲“LIKKLE MORE~めぐりeye~”が部屋聴き仕様の感動系ミディアムだったこともあり、一部で〈セルアウトしたか!?〉なんて声も聞かれたが、今作では序盤から攻めの姿勢を確認することができる。何もそこまで、と心配になるくらいだ。

「オケは絶対に全部カッコイイものにしようって決めてた。だってオケさえ良ければ、あとはカッコイイ歌を乗せれるだけじゃないですか!?」。

 ごもっとも。というわけで、シャキシャキとしたビートが耳を刺激する“POWER 2K∞”など、3曲でスティーヴン・マクレガーにミックスを依頼している。

「あの人はイチローみたいなもん。〈こんなオケ作りたいねん〉ってジャマイカにデモを持って行ったんですよ。そしたら1分くらい聴いただけなのに〈ああ、わかった〉って言って、その2時間後にはリディムが出来てたんです。めちゃくちゃカッコイイ音をあまりにサラッと作るもんだから、〈ええ~!?〉みたいな」。

 他にも、ダミアン&スティーヴン・マーリー“The Mission”の大ヒットで知られるベイビーG製の同名リディムを猛々しく乗りこなしたり、セラーニ率いるダセーカ指揮のもと超重量シンセが効いたトラックに真っ向勝負を挑んでみたり。

「ヒップホップの風味をちょこっと混ぜるあの感じはダセーカにしか出せへん。この曲でオートチューンを使ってみたんですよ。いま誰でも使ってるから、とりあえず俺もやってみたくて」。

 そうしたジャマイカとの時差を感じさせない現場キラーな曲があるからこそ、先の〈LIKKLE MORE〉だって活きてこようもの。「ちょっとズルイですけど、それも狙い」と語るブルーハーツ“1000のバイオリン”のカヴァーにせよ、飛び道具の一言で片付けるにはあまりにも高品質だ。つまり、彼の力量を判断するにはある程度の曲数が必要ということだろう。

「俺自身はそこまで深く考えてなくて、ただ何でもやりたいだけ。ゆっくりな曲も歌えるし、速い曲もイケる。〈どんなトラックでも乗りまっせ〉みたいな。いろんなパターンに対応できるオールマイティーなスタイルが、自分の持ち味だと思ってます。どれかひとつズバ抜けてるのもカッコイイけど、自分はそういうタイプじゃない」。

 硬軟のバランスが取れた今作において特に印象的なのが、“栄光に近道無し”と“CODE NAME ABC”。前者は2007年に逝去したTERRY THE AKI-06に捧げられたもので、TERRYのフックを引用して作られた感慨深い一曲だ。しかし、追悼ソングというと普通はしっとりめになりがちだが……。

「TERRY君もそういう人やったんで、アグレッシヴなほうがいいかなと。決意表明ですね、〈今後もがんばります〉みたいな。(彼の死は)突然だったからかなりショックを受けたけど、でも〈人生こういうこともあるねんな~〉と思いながら逆に俺のやるべきことを考えたんです。それで〈やっぱり歌い手や!〉って。で、歌い手やったら曲でお礼を言っとかな、バチ当たるでしょ」。

 同曲を聴いたうえで、ARM STRONGとBIG BEARを迎えた“CODE NAME ABC”を耳にすると、彼の言う〈決意表明〉がより深く心に響いてくるのだ。

「俺ら全員20代半ばで、これから自分らでもっと大きいことしていかなあかんわけですよ。だから、このメンツで全国に発信しても恥ずかしくない曲、他の地域の奴らに宣戦布告する曲を作りたかった。〈大阪にはこんなヤバイ奴らがおるぞ!〉みたいな」。

 登場時から常に〈大阪新世代代表〉と謳われ、そのことについては「言われすぎてウンザリしますね」と苦笑い。だが、そろそろ〈若手〉を卒業し、CHE-HONが先頭に立ってシーンをリードする時期が来たのかもしれない。『RHYME LIFE』はそう思わせるに十分な説得力がある。

▼CHEHONの作品を紹介。

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掲載: 2009年04月09日 15:00

更新: 2009年04月09日 17:34

ソース: 『bounce』 308号(2009/3/25)

文/山西 絵美